前回の続きで、適応障害について、深田恭子さんの話。

 

 深田さんはこれまでずっと第一線で人気女優として活躍し続けた方であり、その可愛らしいキャラクターで多くのドラマや映画に出演していた方。番宣でバラエティー番組にも出ていたほど。そういう意味では、厳しい芸能界において、女優としてのスキルの高さと共に、コミュニケーション力もあり、健康管理にも気を使うなど、極めて高い能力を持っていた人である。

 

 その深田さんが“適応障害”になるものだろうか?普通に考えればおかしい。現実的にどうなのかと考えると、基本はオーバーワークによる心身消耗状態なんだろう。あれだけ忙しく仕事をしていれば、どこかでキャバオーバーになってダウンしてもおかしくない。俳優さんの仕事は、テレビや映画、CMなど、映っている時間の何倍もの時間を要するようだし、例えば45分のドラマでも数時間以上かかるらしい。数秒の回想シーンなどもいちいち着替えて撮影、表面に出ない待ち時間、外のシーンでは寒さや暑さに耐え、スタッフや他の出演者など、初めて会う人も多い中、いちいち気を遣わないといけない。心身ともにタフな仕事だし、休みの日も少なそう。いずれにしても、そんな仕事をいくつもかけ持っている深田さんレベルの人はスーパーマン(スーパーウーマン)である。

 

 だから、それほどの人のオーバーワークを“適応障害”というなら

 

「どこまで頑張って適応すればいいんですか?」

 

ということになってしまう。無理して頑張っていた深田さんが、よく分からない“適応障害”という精神疾患として報道されたのに、違和感というか、ちょっと嫌な感じがした。これに乗じて深田さんをめぐる人間関係に言及するニュースなども見かけるが、ほんとヒドイ。所属事務所としては、“オーバーワーク”と言ってしまうと、従業員に過重労働を強いていた、ということになるので、あのような休養発表になったのか?よくある「体調不良」としなかったことからは、結構なうつ状態だったのかもしれず、その点が心配である。

 

 もう一人、最近話題になっていたテニスの大坂なおみ選手について。4大大会の一つ、全仏オープンで、記者会見を欠席し、ペナルティーが課せられることになった。テニス選手では試合後の会見も仕事の一つと見なされるかららしい。それに対して、大坂選手は「長いことうつで苦しんでいた」と打ち明けたこと。

 

 彼女は人前に出るのが苦手なこともあって、インタビューはかなりのストレス因子だった。さらに記者によっては厳しい(意地悪な)質問をする人もいたようである。

 

 あれだけすごい選手であっても、世界の大舞台に立って、多くの人に注目をされ、自分の言動がニュースになってしまうのなら、多大な重圧だったことは想像に難くない。特に彼女は人前に出るのが苦手とも聞くし、何よりもまだ10代で急にそういう立場に立たされた、となると、そこに“適応”するのは非常に大変なことである。その状況で、時に不調もあったが、以後もすばらしい成績を残してきた。今回は、とりわけ肉体面も精神面も不調で、余裕もない状態だったのだろう。このままではやばい、と感じた彼女は、記者会見を回避、大会の棄権し、自分を守ったのだ。

 

 一部の報道では、“うつ病”という表現が使われており、それに対して心無い報道で「うつ病ならば、1回戦を勝てるはずはない」とまるで彼女が言い訳をしているようなものもあったが、それは全く的外れ。ツイッターでは「I have suffered long bouts of depression:長期間うつに苦しんできた」とある。精神科的にあえて言うととすれば、初優勝後に、新たな立場と環境に押しつぶされそうで、抑うつと不安を伴う適応障害を生じたが、今回は会見キャンセルという行為障害を伴ったもの。こういう表現は失礼で言いたくないが(深田恭子さんと同じように)。もっとも無理をし続けると、うつ病レベルになりうるので、そういう意味でも彼女の判断は良かったと思う。

 

 コメントでは、「メンタルな問題を軽々しく出したくなかったけど、当初のメッセージの発信の仕方がよくなかったので謝りたい」と気丈に発言している。そんな彼女なら、しばらく休養しまた元気な姿を見せてくれるだろう。

 

 ちなみにメディアは、大阪選手がうつについてのコメントを出したとたん、手のひらを返したように彼女を擁護する論調になったが、それにとても違和感を持ってしまう。ニュースで煽って、繊細な彼女の苦悩やメンタルヘルスを無理やりカミングアウトさせたようなものなのに。

 

 適応障害とうつ病についても次にもう少し考えてみたい。

 

参照

適応障害によるうつや不安