ロナセンは評価の分かれる抗精神病薬だと思う。エビリファイと同様、日本で開発された非定型薬(大日本住友製薬という仰々しい名前)で、SDA(セロトニン・ドパミン・アンタゴニスト)というタイプ。つまり、D2阻害で幻覚妄想を抑えつつ、5HT2A阻害でEPSの軽減を図る、というシンプルな作り。薬剤プロフィールからすると、リスペリドンと同じタイプだが、リスペリドンのような重さがなく、錐体外路症状(EPS)も少ない、という利点がある。ここでいう「重さ」というのは、薬により抑えつけられて気分が浮かない、とか、ぼんやりと頭が働かない、というもの。そのため「副作用の少ないリスペリドン」という印象で好んで使う精神科医もいる。

 

 自分にとってはロナセンは副作用は少ないけど、統合失調症へは、切れ味やパワーの点で頼りない薬というイメージ。特に急性期に不穏・興奮が目立つ患者さんには使っていない。リスペリドンやオランザピンなど強力な薬である程度落ち着いた後、副作用が気になる際、維持療法としてロナセンに切り替えるという使い方はある。ロナセン単剤で幻聴を抑えられるなら、体重増加もなく、鎮静作用が少ないことなど、プロフィール的にもいい選択と思えるから。陰性症状によい、という意見もあるが、重くなく丁度いいレベルで幻覚妄想を遮断できれば、脳の回復(=陰性症状の回復)もよい、ということだろう。でもやっぱり切り替え後に陽性症状が再燃して残念・・という経験もあり、やっぱりロナセンを使うのを躊躇してしまう。粘り強く使いこなそうと努力すれば違うかもしれないけど。

 

 統合失調症以外では、ロナセンはシンプルで軽い薬であることから、発達障害圏の人の興奮や精神病状態に対して、高齢者の幻覚妄想状態(妄想性障害、精神病性うつ病、認知症に伴う妄想)などへも使いやすい。これらの患者さんは薬に弱いので、リスペリドンなどよりも、結構よい選択肢になりうる。また糖尿病の人に使えるのもうれしい。

 

 なお製薬会社のPRでは、ロナセンはD3受容体に働くため、ドパミン過感受性精神病(DSP)になりにくい、という。DSPというのは、抗精神病薬を長期に使うと、D2受容体がどんどん増加して、薬を増量しないと効かなくなってくる、という病態のこと。だからロナセンは慢性・難治性の病態になりにくいのだそうだ。ただそうは言っても、十分に陽性症状をとる力があっての話だし、それができないなら脳がダメージを受け続けるので、統合失調症の患者さんの予後は悪くなるから。
 

 ということで、自分としてはあまり高評価はしてないが、慣れた医師が上手に使えば長期的にはいい治療選択になりえるとは思う。

 

 以下がまとめ

 

1.特徴・利点

・幻聴に効果が高いという

・リスペリドンよりEPS少なく、押さえつけられる感じが少ない。

・薬剤プロフィールがシンプルで、知的障害や発達障害圏に対してもいいことも。

・高齢者の幻覚妄想に、軽くて使いよい

・体重増加がほとんどない

・D2親和性が極めて高い →エビリファイ・レキサルティと同じで最高レベル

=他の抗精神病薬を押しのけてD2受容体にくっつくということ

・リスペリドンのような高プロラクチン血症はほとんどない

 

(以下は製薬会社のPRより)

・陰性症状への効果が高いという

・D3アンタゴニスト作用強く、ドパミン過感受性精神病(DSP)になりにくいらしい=慢性・難治性の状態(ドパミン受容体が増えすぎている病態)

・安定した作用 =脳内移行よく、排出されにくい

 

2.使い方 CP(クロルプロマジン換算)=4

・4mg2xからの開始。最大24㎎。

・少量で効果がある場合は、見栄えがいい。

・副作用なければ1日1回投与でもいける

・ロナセンテープ20mg =内服4㎎、30㎎と40㎎テープもある

 

3.副作用・デメリット

・外れもしばしば。パンチも弱い印象

・切れ味もいまいち

・CYP3A4阻害(クラリス、グレープフルーツ、ベルソムラ)されると危険

 

4.印象

・パワーや切れに物足りなさがあり、急性期の第一選択としては使いづらい

・リスペリドンなどからの切り替えが上手くいけば、維持療法にはよい選択

→ただし切り替えが思うようにいかず、悪化する人も

・幻聴がメインの人によいというが、あまりそこまで思わない

 

◎高齢者の妄想性障害、認知症やうつ病に伴う幻覚妄想によい

→少量4-8mg程度で結構よく効く =リスペリドンより軽くて副作用も少ないのがいい

・発達障害や知的障害の人の興奮・易怒性や、精神病症状へも(エビリファイの次にいいかも)

・個人的には好んで使うことなく、忘れがちだが、(効果があるけど)別の薬の単剤で不十分な人に、ロナセン追加してよいことはある

→そんな使い方で申し訳ないが

・D2作用が同レベルのエビリファイとの併用がいい人がいる(例:ロナセン12-16㎎+エビリファイ6-12㎎)=お互いにD2受容体にいいバランスで作用するからか?

→どちらか単剤にしようとするとバランスが崩れるのか悪化する

 

・製薬会社がいうようにDSPになりにくい、のかもしれないが、エビリファイやレキサルティの方がさらにDSP予防にいいと思う

・ロナセンテープが発売されたが、現実的にテープにしたい、という人は思いつかない。

=アドヒアランスが悪い人ならテープにしても使わない。そういう人では家族が貼ろうとしても、嫌がるだろうし、貼っても剝がされそう。