人には人に知られたら恥ずかしい、という程ではないけど、ちょっと変なくせ、というかヘンテコなおまじないが自分にある。無くした、と探していたモノを意外なところで見つけたとき、「ニンニク」と唱えながら、みつけたものに、「はー」っと息を吹きかける、というのが、それである。

 

 そのヘンテコな行為が始まるきっかけとなった出来事ははっきり覚えている。

 

 小学校の時のこと、「学研の科学」と「学研の学習」という二つの月刊誌が大手出版社から毎月出されており、クラスの半数以上が買っていた。人気があるのは“科学”の方で、虫メガネや折り畳みの望遠鏡など、科学らしい付録がついていたから。自分もそちらに興味があったが、親からは「“科学“なんてオモチャだ」と言うことで、毎月”学習“を買っていた。

「学研の学習」では、学校の勉強の延長のような内容が主だったが、興味深い児童文学作品も掲載されており、それを読むのが楽しみだった。特に灰谷健次郎さんの「きみはダックス先生がきらいか?」という楽しい話が印象に残っている。

 

 その中に、小学生の男の子が主人公の物語があった。その子は少し怖がりなのだが、ある時友人から借りた本を夜ひとりで読んでいた。その中の一節に、

 

 信じられないかもしれませんが、実は“魔女”は実在しています。その理由ですが、こういう経験をしたことはないでしょうか?

 

 「君が試験を前に机にすわって一生懸命勉強をしていた時、書き間違いをしてしまった。あっと思って消しゴムで消そうと思うが、すぐ横にあったはずの消しゴムがない。机の上や周りを探すがどうしても出てこない。仕方ないのであきらめてトイレに行く、ところが帰ってくると無くなったはずの消しゴムがちゃんと目の前の机の上にある!」

 

 これは魔女のいたずらです。この時、なーんだあるじゃないか、とそのまま消しゴムを使ってはいけません。もしそのまま使ってしまうと、その後ちょっとした嫌なことが起こります。例えば、学校で友達とけんかするとか、お母さんに怒られるとか、お気に入りのオモチャが壊れてしまうとか。だからそんな時は“”ニンニク“と言いながら、その消しゴムに「はー」っと息を吹きかければいいのです。魔女はニンニクが嫌いですから。

 

 自分もこれを読んで以後、ちょっとモノが無くなって意外な所から見つけたとき、「魔女のいたずらだ」と思って、「ニンニク、はー」と息を吹きかけるようになった。自分はうっかり屋さんと言われたこともあり、子供の頃はちょこちょことモノをなくしてそうしていたのだろう。

 

 もちろん魔女のいたずらではなく、無意識にモノの場所を移動させたり、うっかり置き場所を勘違いしたり、などが原因なのだろう。ただ無意味なことと分かっていても、そのおまじないをしてしまう。これは一種の強迫行為のような気もするが、ただ一度だけ唱えると安心するし、毎日のことではないから困ることはない。

 

 このおまじないは今でもときどきしている。明日使うはずの書類や、いつものボールペン、本などがなくなってしまい、探しても出てこないとき。いったん諦めた後、何故か、探したはずの机や仕事カバン、あるいはリビングのテーブルから出てくるときなど。シチュエーションは違うが、モノを無くした時だけでなく、「なぜこんなものがここにあるの?」など思わぬモノを見つけて違和感を感じたときにもしてしまう。

 

 最近あったこと。このご時世なので、自分としても外出時にマスクを忘れないように、と使っていたマスクを上着のポケットにそのまま入れておくようにしている。ただその日は、今年初めてコートを着るので、新しいマスクを準備した。ところがいざ着てみると、初めて着るはずが、なぜかコートポケットには、(おそらく1-2回は使っていたような)マスクが入っていたのである。「なぜ?」と思いつつ、「ニンニク、はー」と出てきたマスクに息を吹きかけしまった。

 

 「ニンニク・・」のタイミングは、だいたいモノを発見してからすぐなのだが、時に「うーん、これはどうなの?」と戸惑いちょっと待つこともある。でも気持ち悪くなってきて、呪文を唱えつつ、はー、っと息を吹きかけてほっとする。周りに人がいる時にも、気づかれないよう頭の中で「ニンニク」と唱えつつ、少し顔を背けこそっと息をかけている。なお、息のかけ方は、口から軽く吹きかけるとすっきりしないので、腹から温かい息を吹き出すのが自分流(くだらない・・)。

 

 ちなみに、このおまじないのお陰なのか、魔女のいたずらの後に嫌なことが起こった記憶は今のところない。多分これからもずっとするんだろう。やっぱり強迫行為か?