もともとは抗てんかん薬。精神科的には、気分安定薬として、双極性障害、とくに躁状態の安定に効果があり、汎用されている。特徴としては、あらゆる疾患の躁状態や易怒性、焦燥感、情緒不安定など、に効果が期待でき、副作用が少なく使いやすいこと。統合失調症の幻覚妄想に伴う興奮、うつ病での焦燥感、認知症を含む脳器質性障害の易怒性、発達障害やパーソナリティー障害の情緒不安定、など、あらゆる場面で、精神状態を落ち着かせるのに使える薬です。

 困ったときに、デパケンを思い起こして何とかなることもしばしばで、常に意識しておきたい薬。例えば、メジャーで副作用が出やすい高齢者や、薬に弱いASDの人の興奮やイライラなどが、デパケンで何とかなったり。

 ただ急性期を過ぎても漫然と使われがちなところに注意。双極性障害など継続が必要な人もいるけど。副作用では、傾眠やEPSは時々あり、肥満や脱毛なども(糖尿病でも使えるけど)。高アンモニア血症やカルニチン欠乏症についても忘れないようにしたい。

 

有効性・利点

・Scや躁状態で興奮・焦燥感強い場合は、最初から抗精神病薬に併用した方がコントロールが早い。

・躁状態では、嫌な性格、疑い深い性格の人に(リチウムより良い)。柔らかく人当たりがよくなる(自覚あり) =神田橋先生より

→患者さんをみながら使い分けてみると、「なるほど」と分かる

・Scで抗精神病薬の増強効果や、副作用の軽減、減量の際に追加することで減量をしやすくする効果もあり。効果ないなら中止。

・急速交代型に、リチウムと併用

・発達障害や知的障害圏で、衝動行為や問題行動のコントロールに有効。

→これらに伴う感覚過敏を軽減することも

・せん妄や、認知症の問題行動においても、セロクエルやメマリーなどに次いで使用も可能

・全般てんかんの第一選択。部分てんかんにも効果あり。精神症状のあるてんかん患者に、他剤から切り替えもいい。

 

使い方

・基本は徐放型のデパケンRがよい。細粒やシロップもある。

・躁状態や興奮に、400-600mg 2xでスタート。数日~1週間ごとに200mgずつ増量し、1000-1200mgまで。1600mgくらいにしている報告も。老人なら100-200㎎でも。

・効果は3-4日程度で、リチウムより早い。量にして600-800㎎くらい→ 更に増量も

・血中濃度測定:副作用少ないからと忘れがち ←50~100(~150)

・デパケンシロップは飲みやすく、効果も早い。頓服にも。ただし、濃いピンク色のシロップは飲むのに違和感あるかも

・デパケンRは錠剤が大きいので、高齢者は飲みにくい

・てんかんでテグレトールと併用されることあるが、ともに相互作用で濃度が変わることに注意

 

副作用・デメリット

・副作用は少ないが、眠気やふらつきは意外に多い

・若年女性では妊娠時の影響、月経不順、体重増加など →ラミクタールへの変更が望ましい。

・振戦、EPS、消化器症状=リチウム、メジャー併用時に多い、振戦にはβブロッカー・ガバペン

・肝機能異常がある際は、高アンモニア血症に注意 ←バルプロ酸血中濃度との相関は意外と少ない

→神経症状(傾眠・意識障害、認知機能低下、粗大振戦、運動失調)、精神症状(易怒性、不安、うつ)

・カルニチン欠乏症を来すことも

→バルプロ酸はカルニチンと結合するため=エネルギー枯渇 ←テグレトール併用で多いらしい

*カルニチン(正常値20-60μM)­=脂質代謝のビタミン用物質:肉・魚に多い、摂食障害や肝・腎機能低下で減少

→カルニチン欠乏症=倦怠感、筋力低下、不整脈、急性脳症

→治療:レボカルニチン300㎎ 6錠3x=1.8g~3.6gまで)

・ラミクタールとの併用で、皮疹のリスクあり。

・脱毛(5-10%)、多毛 →意外とある

・浮動性めまい

・血小板減少(まれ)

 

印象

・どんな精神疾患でも、精神状態を安定させる効果が期待 →漫然と投与しないよう注意

・必要量を決めるのが難しい →量を増やすと効くこともあるが

・パーソナリティ障害や発達障害圏・知的障害、認知症のBPSDなどでも使える。

・興奮を抑えるにはメジャーやテグレトールよりやや弱い →高用量必要か?

・幻覚妄想の減少に、メジャーと併用で効果が出ることもあるが、期待しすぎない

・焦燥感の強いうつの鎮静にも、メジャーの代わりに(副作用が少ない)

・ラミクタールとの併用は、薬疹のリスクを考えて避けられがち。でも併用でより気分が安定することも(ラミクタールを半量にして使用)