少し変わっているくらいで目立たず、普通と思われていた人が、大人になって、強いストレスを受けたときに、精神症状と共に、発達障害の特性が目立つ人がいる。いまどきの表現では“発達障害グレーゾーン”というくらいの人。

大人と子供では、今の日本のような国に生きていると、求められる役割が非常に複雑で、高度になっているからと思われる。昔に比べ、一人ひとりへ求められる仕事量も多く、技術や対人スキルなど含め、多種多様な能力を求められ、余裕もなくなっているから。そういう面では「働き方改革」が必要なのだろうが、日本経済全体が厳しい今は、それで社会が回るのか?と思ったりする。病院でも自分も含めてスタッフもギリギリで頑張っているし。

 

 発達障害の人が、成人後にどのようにして精神科医療と関るか、治療に難渋するパターンなど、精神科医として意識しておくことについてなどもまとめた。

 

1.社会人になってからASDと言われる場合

 

・大学卒業までは、ASD特性が目立たなかったが、社会人なって、高度な人間関係や就労能力を求められた際、適応困難となり、精神症状が出てくる人。よく発達障害のグレーゾーンといわれるくらいの人だが

→基本的にはASDの人の精神疾患は、急性~慢性の「適応障害」

・ASD特性の程度や偏りは個人差が大きいが、それはすべての人のちょっとした違いにも似ている

→ そういう面では確かに“個性”というのも当たっている

=「あなたも私も発達障害」(神田橋先生)

 

2.精神症状が出た場合の経過

 

・仕事や人間関係に疲弊・混乱して、うつや不安・パニック、対人トラブルなどで受診することが多い

・急性期は、普通に薬物療法しながら休ませると、割と精神症状は改善しやすい。ただその後が大切

・受診して初めて自らの特性を知ってから、疾患の理解や治療意欲のある人、特に人のアドバイスを聞ける人(頑固でないタイプ)、知的能力の高い人は、よくなって社会復帰できる。もちろん、頑固な人でも、いい関係性を作って、理解しやすく、受け入れやすい助言をするのが精神科医の技術であるが。

 

・本人が無理なく過ごせる環境(職場の理解と配慮、向いている仕事へ転職、生活の場、サポートしてくれる身近な人)にいるなら、治療後は不適応も来さず、薬も要らなくなり、普通に生活も可能。

→こういう人は、精神症状が改善すると、ASDと分からなくなる

 

3.ASDの薬物療法(詳細は今後に)

・急性期を過ぎれば不要になることもある。しかし、イライラの閾値が低い人、感覚過敏が強い人などは、少量の向精神薬(エビリファイ・抗うつ薬など)が社会適応をよくする場合も。頓服にもよい。

→「飲んでいる方が楽。全然違います」「頓服で仕事中のイライラを凌いでます」という人もしばしば。

 

・薬物療法の大きな注意点は、ASDの人の多くは薬に弱く、副作用(嘔気、頭痛、気分不良、眠気など)が出やすい。副作用が出ると、特にASDタイプでは拒否感が強く、薬物療法ができない。

 

4.大人のASDで治療が難しくなるパターン

 

・特性や症状が表面化したら、早い時期より、疾患の理解や治療意欲ができないと、同じような不適応~精神症状悪化を繰り返す

=知的能力が高い人でも、適切なアドバイスを拒否したり、協調性に難がある人は、プライドが高く他罰的なのも障壁

→いわゆる「新型うつ病」もASDの人が多いように思う

 

・ASDの人は変化が苦手なうえ、年齢が高くなるほど頑固になり、上手く行かない現状を嘆きつつ、変化に抵抗。治療意欲を引き出すのが難しく、本人も辛いのだろうが、治療する側も悩む。失敗体験を繰り返したことで、自信を失っていることも大きいが。

→適応改善のためのアドバイス(適度の薬物療法も含め)を受け入れなかったり、表面的に聞くだけになったり

=通院はするが、通院そのものが目的(医師や心理士に話をするだけ)になり、治療が進まないというパターン。お互いに諦めてしまいがち

 

・治療に難渋、うつの慢性化、引きこもり、生活能力なく親に依存的な生活。8050問題への関与もあると思う。

→若いうちにある程度よくならないと、かなり困る

 

・青木先生の本では「難しい人でも、お互い希望を持ち、辛抱強く付き合っていくうちに、ふとしたことがきっかけで良くなる人もいる」とある。

 

◎まとめ

 自閉症スペクトラム(発達障害)の特性があっても、軽ければ学生のうちまでは目立たない。しかし大人になって仕事など求められることが増えた際、うまく適応できずに、うつや不安など精神症状を起こす(本質的には適応障害)。

 初期には薬物療法と休養で速やかに良くなることが多いが、疾患の特性を理解してもらい、適切なサポートや工夫をする必要がある。不適応による精神症状再発を繰り返すと、患者さんは自信を無くし、仕事もできず、治療意欲も削がれ、慢性の辛いうつ状態に陥る。早くいい治療関係性やサポート体制を作りつつ、共に粘り強く治療に取り組みたい。