知覚、認知、思考、感情、行動などが、相互にシンクロしながら、バランスを保つことが、人間らしく生きるために必要。自分という存在と、外界との違いが分からなくなると、これらがバラバラになり、知覚したことの捉え方や、生じる感情、それに伴う行動などが、ぐちゃぐちゃになり、他から見て了解不能となる。友人が何やら話している声を聞いて、自分に対する悪口と確信、泣き出したり、異常な怒りをみせたり・・。

 なぜそのような症状が起きるのか?統合失調症について、自我障害、という観点からみると、理解がしやすいと思う。

 

<自我障害と統合失調症>

・統合失調症は自我障害の病気と言われている

→幻覚妄想や思考障害も、自我障害の2次的に生じたものという考え方

 

・もともと真面目で素直、繊細なタイプの人=「言うことをよく聞く、育てやすい良い子」

=統合失調症の遺伝的素因の人はこういう気質が多い

→自我意識が弱いので、他の人から責められないように、従順に生きてきた人

 

・このタイプの人が、生育的する環境や体験により(後天的)、その遺伝子が発現しやすい状態に。そして、外部の環境や人に揉まれ、強いストレスをきっかけに、耐え切れなくなり発症

 

・外界を認知・思考しているのは、自分なのか、他の人の考えなのか、どう行動すればいいか分からなくなり(自我意識の崩壊)、戸惑い、混乱し、恐怖を覚える =妄想気分

→恐ろしい世界の中で、自分の現状を理解しようと、(まじめに無意識に)幻覚・妄想を作って辻褄を合わそうと儚い努力 =被害妄想によって理解しようとすること多い

 

・その幻覚妄想がどっと押し寄せ、更なる混乱・恐怖に晒されて、思考の混乱、奇妙な言動、興奮、問題行動など

=周囲に分かるレベルとなり、家族や職場で問題となり、受診に至ることが多い

 

・幻覚妄想により、外の世界が怖すぎて、他人と交流をせずに閉じこもる人も

→アパートでカーテンを閉めて引きこもり、全く外に出てこなくなる人

→幻覚妄想を伴う不安について上手く訴えられず、戸惑いながら「不安です」と、長期間「社交不安障害」として通院する人も(もちろん不安障害の治療薬では良くならない)

 

例>子供の頃より大人しく内気な女性。レストランで働いていたが、上司からの叱責を受け続けて悩む。家族にも相談できずに、その辛い状況に合わせようとするも、耐えきれず自我が崩壊。「嫌な客に付け狙われている」「盗聴器がしかけられ、自分の私生活がのぞかれて怖い」などと、恐怖感を伴う内容の幻聴・妄想を述べるようになった。その一方で、その怖い妄想世界にいることは「自分が悪いので仕方ない」と諦めつつ、周りの世界を受け入れ、理解しようと無理をする。そのため「外に出たら襲うぞ」との幻聴に従い、アパートに閉じこもり連絡が取れなくなった。心配した家族が訪問すると、カーテンを閉め切ってぼんやりと座り込んでいるところを発見。病院に連れてこられた。

 

2.いわゆる自我障害の症状

・自分の考えと、それを否定する外界からの思考が、“幻聴”のような感覚で自覚されることが多い。「心の中を覗かれていて怖い」=幻聴は実質的な声、というより外部から思考が入ってくる感じ

・この状態で以下の症状

①思考封入

②思考奪取

③思考伝播

④思考化声

⑤させられ体験(作為体験)

→表現は違うが、いずれも自我境界がなくなるとこういう症状になり、幻覚妄想も同じ流れで生じる

 

3.自我について、他の疾患との違い

a. 自分を守れず、外界に呑み込まれて混乱するのが統合失調症

 

b. 外界からの刺激の防御に疲れるのが強迫性障害

→必死で防御しているが、防御のための強迫観念・強迫行為が、そのまま妄想になることも =防御に疲れて考えるのを辞めた

 

c. 最初から外界をシャットアウトしているのがASD(自閉症スペクトラム)

→ASDの人が、成長の過程で、外の世界に馴染もうとして、上手くいかず混乱した際に、幻覚妄想を生じる人も

→治療受けて、幻覚妄想が改善するとまた自閉する

 

d. 統合失調症かASDか分かりにくい人

受動型ASDは、統合失調症の病前性格に似ており、鑑別が難しいことも多い

=自分からは行かないが、他人から接近されると、拒否できず受け入れてしまう性格。精神病症状を来した時、診断に悩むが、治療方針はほぼ同じ(長期的には違うけど)