子供の世界は狭く、人生経験が少ないため、些細なことを気にして、うつに陥りやすい。すなわち、学校、友人、家庭ぐらいの狭い世界の中で生きているため、例えばいじめにあった際、「逃げ場がない、どうしようもない」と感じて深く悩む。また辛くても今の時期を乗り切れば長い人生、何とかなる、という考えに至らず絶望してしまう。

 

 好きなことをしなくなり、笑顔が消えるなど、抑うつ気分・意欲低下のほか、怒りっぽさやイライラ、不安の訴えなどがよくみられる。学業不振、不登校、引きこもりなどで表面化することや、腹痛、頭痛、嘔気、時に発熱などの身体症状が前面に出ることも多い。

 

 児童思春期のうつ病において注意すべき点はいくつかあるが、まず重要なのは、大人に比べ衝動性が高いため、うつ状態はさほど重くなくても、破壊的な問題行為を来しやすいこと。例えばいじめを苦に自傷行為~自殺企図を来すことや、逆にいじめの相手や親に対しての暴力なども。

 

 次に子供のうつは意外と見逃されやすいこと。児童思春期の子供は、本来は表情が豊かで、顔や様子をみると、「最近元気がないな、大丈夫かな?」(大人しい子供でも普段と違う)と分かりやすいはず。しかし言葉による訴えは少なく、悩みを聞いても「大丈夫」と否定しやすい。自分の悩みを適切に言語化できないことや、また結構ぎりぎりまで我慢できてしまうことも、子供のうつ病が見過ごされる一因と思われる。親や教師、周囲の大人が、その子のベースラインとなる精神状態を知った上で、言葉だけでなく、表情や動作など、生活全般を見て、早く気づいてあげたいが。

 

 さらに子供のうつ病には、ベースとなる精神疾患を伴っていることも多い。ASD、ADHDなどの発達障害、軽度の知的障害(案外気づかれない)、愛着障害~被虐待児などが多い。家族歴がある時には双極性障害であったり、統合失調症がうつに見えたりすることもある(逆にうつ病性の幻聴が、統合失調症と間違われることもある)。さらに、これらが単独でなく複合して、焦燥感や攻撃性の強いうつを来すこともある。ASDのため育てにくく親からの虐待を受け、さらに学校で不適応を来し、いじめにあう場合など。

 

 12歳以上であればうつ病の発病率は大人のそれと同じ、とも言われるが、下記のように、大人のうつ病とは背景や表現型も違うので注意したい。治療についても、薬物療法は急性期に留めておき、生活環境の調整や心理カウンセリングが中心になる。

 

・特徴:

大人のうつ病と比べて目立つ症状

1.易怒性、攻撃性、焦燥感:事故につながる

2.孤立感:引きこもりにも

3.身体症状が前面に出やすい(頭痛、嘔気、腹痛などが多い、時に発熱も)、体重減少、発育不良

4.気分の日内変動

5.過眠、早朝覚醒

6.学業低下

7.精神病症状31-50%:幻聴多い、妄想少ない

8.自殺念慮60%と多い →視野狭く、衝動的になり易く注意

 

<治療>

1.周囲の大人が助けてくれる、悩みを聞いてくれる人がいる、という安心感を

2.休学もいいが、現実的には?

→長くなると学校に行きにくくなる場合

3.環境調整:家庭、学校、地域、福祉

→長期の引きこもりを予防に早めの対応:塾、保健室登校、フリースクール(お金かかるが)

2.心理カウンセリング:親も共に

 

<薬物療法>

◎環境調整に併用。急性期を乗り切るために主に使う。また、発達障害などがベースにないか?考えて行うこと

 

3.メジャーを急性期の易怒性・焦燥感や強い不安に対して、眠剤にもいい

 エビリファイ、セロクエルが使いやすい。攻撃性ある時はリスペリドン、鎮静をしっかりしたい時はジプレキサも

 

4.抗うつ薬:大人と違って効果は限定的なことが多い=慎重に

 ・文献的には、セルトラリン、レクサプロ(SNRI、TCA、リフレックスは効果確認されてない)

 →個人的には、鎮静作用があるリフレックスもいいと思うが

 ・抗うつ薬での自殺関連行動に注意:最初の1-9日

 →家族の見守り。鎮静作用のあるメジャーを併用するのが自分の好み

 ・フラッシュバックなどトラウマ関連にはいいかも

 

5.眠剤としては、ロゼレムがよい

 →BZは脱抑制があるので使いたくない