普通のうつ病では、抗うつ薬での治療を開始すると、結構早く効果が出て「楽になりました」という患者さんが多い。しかし1か月以上しても効果があまり見えない時の対策。

 

 うつ病治療はトータルで考える必要があるが、ここでは薬物療法について主に考えてみた。原則は、ある程度効果が出るようなら、増量していくが、これまでまとめたように、非定型薬の追加は、抗うつ効果以外の症状にも有効で治療速度も早まるし、難治性うつ病にも使い勝手がいい。ということで、せっかちな自分としては、早い段階で併用してしまいがち・・で注意。

 

 うつ病の改善の指標として、患者さんは自覚的に「良くなりません」と言うものの、客観的にみると(表情や体の動き、顔色、話しぶりなど)良くなっている人もしばしばいる(自閉圏の人は自分の変化に気づきにくいよう)。こういう人では効いている薬を慌てて変更しないよう気を付けたい。

 

 

1.最初の抗うつ薬を十分投与しても効果が見られないとき

 

a. 別の抗うつ薬:単に切り替えだけでいい人も

→SSRI,SNRIどれでもいいが、優位な抗うつ薬(STAR*D):エスシタロプラム、ベンラファキシン、ミルタザピン、セルトラリン

→トリンテリックスへ切り替えも

→TCAは最近はあまり使われないが、中等度以上のうつ病に効果が高い、とのテータも

 

b.  リフレックス併用(カリフォルニアロケット燃料:Stahl先生)

→自分の好み(サインバルタに加えるがベストだが、SSRIなどでも有効)。副作用を打ち消しあう上、効果も高い

 

c.  非定型薬の併用:ジプレキサ2.5-10㎎、セロクエル25-100mg(時に300mgまで)、エビリファイ3-6mg(長期に使うと存在感なくなる人も)

→ 5HT1A部分アゴニスト, 5HT2A&2Cアンタゴニスト, 5HT7アンタゴニスト、5HT1B/1Dアンタゴニスト、α2アンタゴニスト、NRIなど

 

d. リチウム併用(推奨するエビデンス多い):400-800mg、0.6-0.8mEq/l:少量でも?意外と早く効くことも。

→教科書にあるほど効かないように思うが

 

e.  甲状腺剤(エビデンスあり):リチウム併用で甲状腺機能低下した時にも

 

f.  SSRIやSNRI、TCAなど、うまく組み合わせて効く人もいる

→ある薬が効いているのに副作用で増量できないとき、他の薬を併用して十分な効果がでる場合

 

2. 良くなっているのに、社会復帰に時間がかかるとき

a.  精神療法的に復帰への後押し、環境調整もだが、抗うつ薬の見直しも検討すること

b.  社会復帰できても、従来の能力を発揮できない人についても(うつ病治療が不十分)

c.  ただし製薬会社がいうように、「就労能力を高めるため」に、抗うつ薬を長く多めに使う、というのは、いかがなものか?

 

3. 双極性の可能性:ラミクタール、リチウム、抗てんかん薬

→双極性でなく普通のうつ病にも効果あり。ちなみに、難治性のうつ病?に対し、あまりはっきりとした根拠なく、「抗うつ薬が効かなかったので、双極性」という診断・治療をする精神科医もいて「それってどうなの?」と思っていた。でも今は「そういう見方もありかも」というよう気もする。患者さんをよく診ないといけないけど、本人が軽躁エピソードに気づいていない場合や、「まだ躁エピソードが起こっていない(これから起こる)」だけなのかもしれない。

 

4. 重症なら

a.  入院:身体管理にも

 

b.  アナフラニール点滴(その効果に驚く)

→ 効果は早く、点滴した直後すぐ「楽になりました」という人もいるくらい

→mECTを考える前に行う価値あり

(点滴の前に)

① 念のため心電図チェック

② 最初は500mlの輸液に、アナフラニール0.5Aくらいから。点滴は2時間はかけるのが安全 =途中で副作用出て中止するのはもったいない

③ 2-3日毎に、0.5A →1A →2Aと増量しつつ、数日~10日1くらいまで継続。その間に内服の抗うつ薬も効いてくる

④ 嘔気嘔吐や頻脈(胸部症状も)、気分不良に注意

→少量から始めると、副作用でる人は案外少ない

⑤ 双極性の劇うつにも効くし、一時的な使用なので、躁転も少ない

 

c.  mECT(電気けいれん療法)

→食事がとれない、劇うつで苦しくて仕方ない人、焦燥感が強い躁鬱混合状態など

ECTで一旦良くなってからの再発予防に、抗うつ薬+リチウム、維持ECT+抗うつ薬

 

5.難治性で長期化する場合

 

a.  うつの原因の再確認:特に器質性疾患(甲状腺機能、自己免疫疾患など)。自分では言わないが、アルコールや薬剤が関与していることも。

b.  うつに囚われすぎず、日常生活改善を主な目標に →環境調整

→神経症圏やASDの人などで、「うつがきつい」と、やや過剰な自覚症状を訴えることあり。何とかしてあげたいという気になるが、病的なうつというより、全般的な生活がうまく行かず、悩んでうつうつしている、というパターンが多い(気分変調症=抑うつ神経症)。

c.  前頭葉類似症候群という考え方

→抑うつ気分は軽減も、SSRIで気分がflatになり、意欲や楽しさがない人=セロトニン↑でのアパシーのことらしい

→トリンテリックス、SNRI、TCA(ルジオミールなど)、ストラテラは?

 

6.すごく困ったときに

 

a. 三環系を最大量(アモキサン、ルジオミール、トリプタノール、アナフラニール)

→あまり使ったことないが、難治性にSSRIより効果があるとの論文あり

b.  抗てんかん薬:ガバペン、トピナ、デパケン、テグレトール、リボトリールなど併用

c.  DAアゴニスト:ビ・シルロール、ブロモクリプチンなど

→増強療法としてはあまり使ったことない。吐き気やふらつきが多く、使えない人もしばしば

→アマンタジンの方がいいかも

e.   光療法:睡眠改善だけでなく、抗うつ効果も(北欧では冬季のうつ病によく使われる)。専用機器は、医療機器としては割と安価で、アマゾンで数万円程度で買える。自宅で毎日する人もいる。入院患者なら毎日使える。外来でも頻回に来れる人なら。

 実は、断眠療法という、ちょっと不思議な方法もある。

f.   ビタミンB6(ピドキサール)、ビタミンB12(メコバラミン)

g.  ステロイドで賦活する人も