アカシジアは抗精神病薬の治療中に起こりうる副作用で、主にドパミン遮断作用を持つ抗精神病薬の副作用とされているが、他の錐体外路症状とはちょっと違ったもので、その機序もはっきり分かっていない。

 

主に身体的副作用で、主観的には、下肢を中心とする身体のむずむず感・そわそわ感、何とも言えないけだるさ、など。症状が強い時は、じっと座れない、不快を鎮めるために、立ち上がって足踏みしたり、うろうろと歩き回わる、などが客観的にも見られる。これらは、患者さんにとってかなりの苦痛となる。

 

割と分かりやすい副作用のようだが、患者さんは、むずむず感などの違和感があっても「ちょっと変だけど」と副作用と気づかなかったり、遠慮して言わないことも多い。体調を問うと教えてくれることが多いので、自分は診察時に毎回「体調はどうですか?」と意識して聞くようにしている。

 

注意すべきは、精神的症状の方が目立つ時。抗精神病薬の治療時に、一見精神症状が悪化して見えるが、実はアカシジアであった、ということがある。例えば、幻覚妄想で躁状態の患者さんに新しい抗精神病薬を投与した後、不安やイライラ感、興奮が悪化した時。精神状態が悪化した、と考えて、抗精神病薬をつい増量したくなる。このような時「アカシジアでは?」と常に意識しておけば、身体症状を丁寧に診る。自覚症状を上手く伝えられない患者さんも少なくないため、分かりにくい時は、抗コリン薬の診断的投与をするのもよい。アカシジアの苦痛は強く、強い焦燥感を生じ、自傷行為や攻撃性を来すこともあるため、対応を間違えないこと。なお“Neuroleptic dysphoria”(抗精神病薬誘発性不快症)という概念があり、不快気分~焦燥感などを来す副作用だが、身体的自覚症状が少ないアカシジアのように思う。

 

 アカシジアの分類としては、①急性アカシジア、②遅発性アカシジア、③離脱性アカシジア、④慢性アカシジアがある。

 

多くは、急性アカシジアで、抗精神病薬の開始・増量後の数時間~6週間以内に上記の症状が起こる(3日~2週間が多い)。

 

遅発性アカシジアは、原因薬投与から3か月以降に発言するものだが、そのような経験はほとんどない(気づいていないだけかもしれないが)。

 

珍しいが、離脱性アカシジアといって、原因薬剤を3か月以上投与された後、中断後の6週間以内に発症したものもある。抗精神病薬を止めた後なので、それらしい症状があってもアカシジアと考えずに、中止による悪化?などと見誤るとも。

 

これについて、最近みた患者さんがいる。長期的な神経症性うつ病の患者さん。うつの増悪と、強い不安を伴い入院し、抗うつ薬が不十分で、少量のオランザピンやドグマチールでの増強療法も行われていた。しかし改善不良で、転院して電気けいれん療法(mECT)をしてもらったが、あまり改善がみられない。

 

そのうち手の振戦と歩行障害などパーキンソン症状が出てきたため、抗精神病薬を中止ししアキネトンを投与。パーキンソン症状は比較的スムーズに改善したが、しばらくすると落ち着かない、ソワソワする、と訴えるようになった。当初はうつや不安の悪化と考えていたが、次第にうろうろすることが増えた。診察中もじっとできずに立ち上がって「じっと座って診察は無理です」と発言。抗精神病薬の中止後1-2週間してからの症状だったので、さほど気にしていなかったが、これらの症状から「離脱性アカシジア」と診断した。

 

この患者さんは、インデラルとリボトリールを使用することで、少し時間はかかったが、運動症状と共に、アカシジアに伴う焦燥感も改善しているが、アカシジアを過小評価したことに反省。ただパーキンソン症状も当初は出ていなかったのが、治療経過の中で遅れて出現したことは不思議だった。薬剤やmECTを行う中で、何らかの脳神経回路の反応性の変化が生じたからかも知れない。

 

慢性アカシジアは、症状が3か月以上続くもの。精神症状は落ち着いているが、「ときどき足が少しむずむずします」などと訴える。抗精神病薬を減薬できればいいが、それに伴って精神症状が悪化するなど、難しい時はアカシジア治療薬を続けつつ対応せざるを得ない(それはそれで落ち着いているのでよしとしている)。

 

つづく