第二の故郷、と思えるところがある。
母方の実家だ。
青森県津軽半島を縦断するローカル鉄道の沿線、とことんひなびた田舎町。近くには某文学者の生家がある。
幼い頃から中学に入る時期まで、何度となく訪れた。夏の記憶しかないが、そのため子供時代の夏というと、まずここがイメージに浮かんでくる。
今手元には俺のニ、三歳の頃の写真があり、そのモノクロの画面には板張りの「家」というより掘っ建て小屋に近い建物が写っている。確かに俺の記憶では、玄関の広い土間の横手は何かの作業場めいたものになっており、居間は古い農家風。台所には(貞子が出そうな)井戸。便所は離れで、真っ暗な夜にはひどく怖かったのを覚えている。
今ではすっかりリフォームされて、外観に昔の面影はない。それでも内部の基本構造はどこか遠いヴィジョンに触れるものを残している。
夏に訪れる度、仲良くなった近在の子供達と遊んだ。もう名前も覚えてはいないが…。夏の汗と陽射しの匂いは、いつもここの記憶と結びついているようだ。
田んぼの広がり、小学校のプール、土と古い木のむせぶような匂い、涼しい二階で過ごしたけだるい午後、軒下の大きな雀蜂の巣、祖父の死の前後に病院の屋上から仰いだ凄まじい星空……
二十代半ばから、何度か一人で訪ねるようになった。一応は墓参りと、そこを拠点に津軽半島のあちこちを廻るという名目で。
だが、本当は、ただ単純に帰りたかっただけなのだ。
もうひとつの故郷に。