「まだ解らないかね?」
「すいません、警部。僕にはわかりません……」
「やれやれ、仕方がないな」
髭を整えて警部は言いました。
「君が瀕死の重傷を負ったとして、ラグビーとアメリカンフットボールを間違えるかね?」
「いえ。それは流石にないと思いますが」
「エドガー氏のギリシャ神話好きは相当なもんだ。自宅にこれだけのコレクションがあるほどだからな。だから当然《ヴィーナス》像もその辺にあるはず、……ああ、多分ソイツだ。ウェーバー君、その像の台座を見てみたまえ」
ウェーバーは警部の視線の先を追って裸身の女神像に近寄っていき、その台座のプレートを確かめた。
プレートには女神のものとおぼしき名前が書かれている。だが、それは彼の予想とは異なる名前だ。
「警部!これは違うみたいです。《アフロディーテ》って書いてあります!」
「……それが真相だよ、ウェーバー君。ここには初めからヴィーナス像など無いんだ。ヴィーナスはローマ神話の愛と美の女神。アフロディーテとしばしば同一の女神として扱われることもあるが、基本的には違うものだ」
ダーヴィー警部が質問はあるかい?と首を傾げて部下をみやると、部下は今度こそ合点がいったらしく満面の笑みで上司の言葉に続いた。
「ギリシャ神話好きが《アフロディーテ》を《ヴィーナス》と書くわけがない! つまり、このダイイングメッセージは真犯人に仕組まれた罠ってことですか!」
「結論をあせってはいかんよ。そこは君の欠点だぞ。罠かどうかはまだわからん。被害者が残した可能性もまだ残っている。それこそ《ヴィーナス》と書く必要性があったのかも知れんじゃないか」
「そ、そんな。それじゃ手掛かりになりません」
「我々の捜査はクイズじゃないんだ、あくまでコレは取っ掛かりに過ぎんだろう?さあ行きたまえ、まずは関係者を集めて事情聴取だ」
ダーヴィーはすっかり消沈した若者の尻を叩き、邸宅の奥へと歩いていくのでした。
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