探すべきはお前がめしを食べたい店では無くて
我々が演奏した報酬としてめしを食べさせてくれるバイト先だ。
だが、バンドでめしを簡単に食べさせてくれる店が思ったよりもみつからない。
ざこちよと手分けして真町通りから民芸美術館の方まで片っ端から店にあたってはいるが
どの店からもバンドが演奏する意味を問われるばかりだ。
そもそも、ほとんどの店の客は近所の年寄りの常連しかいないそうだ。
そんな中で演奏したところで、客は迷惑がるだけだろうし
店には何の効果も得も無く、かえって逆効果だと言われる始末だ。
私が思っていたよりもずっと、この町には人がいない。
夏のあの賑わいが別世界の絵空事に感じるくらい
普段のこの町はただただ広い土地の中に、人が泡のように散っているだけだ。
町を遠くから囲う山がとても冷たく大きな檻に見えた。