Hōkū —— 海が呼ぶ夜 Chapter 4 _ʻEhā_
Hōkū —— 海が呼ぶ夜Chapter 4_ʻEhā_白い気配は、すぐそこにあった。触れているわけではない。けれど、確かに“いる”。ルナは息を止めたまま、その場から動けずにいた。いや——動けないのではなく、動こうと思わなかった。さっきまで聞こえていた波の音が、ふっと遠のいていく。部屋の中は、異様なほど静かだった。何も聞こえない。それなのに、その気配だけが、はっきりとそこにある。ルナは、ゆっくりと目を上げた。白くにじんだ向こう側に、何かが重なっている。形ははっきりしない。けれど、それはただの霧ではなかった。そこに、“意思”がある。見られている。そう思った瞬間、胸の奥がかすかに震えた。怖い——とは、少し違う。逃げたいわけでもない。ただ、このまま目を逸らしてはいけない。そんな感覚だけが、静かに広がっていく。その気配は、ゆっくりと近づいてくる。音もなく、形も持たないまま。けれど確実に、距離が縮まっていく。ルナは、動かなかった。動けなかったのではなく、動こうとしなかった。そして——白い気配の奥で、何かが揺れた。ほんの一瞬、輪郭のようなものが浮かび上がる。人ではない。けれど、ただの霧でもない。ルナは、息を呑んだ。そのとき。静かな声が、直接、胸の奥に落ちてきた。「……やっと、見つけた」それは、耳で聞く声ではなかった。けれど確かに、ルナの中に響いていた。