雨がやんだ午後
灰色のねこは、ひとりで夢を見てた。
夢の中の空は、曇天色よりも少しだけ淡くて、
まるで誰かが忘れた水彩のパレットに残ったちびた絵の具みたいにしょぼかった。
ねこは、ちりすらない路地を歩いていた。
濡れたアスファルトが、やさしく足音を吸い込んでいく。
歩いてたんだ。
角を曲がると、そこには小さな公園。
誰もいないブランコが、風に揺れていた。
鉄棒は錆びきって全ての人たちを拒絶していた。
その声がねこの鼓膜に
「きっと、だいじょうぶ」って囁いた気がした。
「嘘でしょ」
だって誰もいない町だもの。
夢の中のねこは、
てるてる坊主になれなかった誰かの後悔を
そっと舐めていた。
甘くて、少し苦くて、
タルトの端っこみたいな味がした。
ねこは、夢の中で傘を持っていた。
でも、差さなかった。
その日、雨は降っていなかったけれど
空気が、雨の記憶で満ちていたから。
ねこは、誰かの忘れたカッパををいつのまにか纏ってた。
少しだけ破れていて、
その隙間から、秋の気配が入り込んできた。
夢の終わりに、ねこは空を見上げた。
雲の隙間から
「サヨナラ」っていう言葉が降ってきた。
それは、誰かの優しさのかたちをしていた。
夢でしょう?
だってみんな目が真っ赤だもの。
さっきまで野菜きざんでた包丁持ってる。
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この夢を見た灰色のねこは、見せてあげたのに。
きっと、秋なんて来ないってわかってた。
だってこのお星にわたしだけに、時間は無くなっちゃったから。
みんな額縁のなかに入っちゃった。
誰かの心にそっと寄り添いたかったのに。
みんないなくなっちゃった。
だれも登れやしないばかでっかい金色の塔と
だれも一歩も通らない真っ赤な橋が虹みたい。
新しい物語がどこかではじまるのかな?
そうか。
この夢醒めないんだ。