あけましておめでとうございます。お正月とはいえ、ちょっとお休みしすぎました。
今年もよろしくお願い申し上げます。

 

 昨年末に社員の一人が言いました。「今、ガンプラが買えないんですよ。どこにも売ってないんです」。

 ガンプラとは機動戦士ガンダムシリーズのプラモデルです。難易度や精密さを基準にしてHGとかHGUCとかRGといった数多くのシリーズを擁しています。300円から数万円の商品まで、そのラインナップは数百点に及び、これまではおもちゃ屋さんから総合家電店まで、どこに行っても山のように積んでありました。

「そんなことないでしょう。あの山のような在庫が消えるはずないよ」と会社の近くにある、「ガンプラ全種類取り揃え」を謳い文句にした模型店に行ってみましたら…見事にガンプラはありません。店員さんに聞いてみるととにかく入荷しないとのことでした。売るもののない小売店さんは本当に悲惨です。ガンプラのあった棚にはぽつぽつと他社製品が置かれていました。

 

 いろいろと情報を集めるとどうやら「巣ごもり需要」「転売ヤーによる買い占め」「メーカーが仕掛けるレアもの市場」というキーワードが浮かんできました。とても乱暴に解説しますと、

 

①「巣ごもり需要で、机ひとつで楽しめる模型の需要が増加。中でも子供と楽しめるガンプラに人気が集中」

 

②「販売元であるバンダイスピリットは通信販売で時折レアなキットを販売していて、転売によるプレミアム価格の出現が常態化していた」

 

③「はじめはレアものからスタートし、昨年中ごろから膨大な商品ラインナップを誇る通常販売品にも転売ヤーが関り、買い占め→在庫不足→高額なプレミアム価格での販売を始めた」

 

④「バンダイスピリットは状況を改善すべく量産しているが、多品種少量生産があだになり、市場に出す傍から転売ヤーの買い占め対象となり、2022年1月の現在でも流通在庫を回復できずにいる」

 

といった流れです。市中の中古品店では定価の倍から3倍程度で販売されていて目を疑いました。このままこの状況が続けば、マニアは兎も角、ガンプラというブランド自体に一般客が失望し、市場に見切りを付けられかねません。

 

 先述の通りバンダイスピリットはかねてから自社の通販サイトで製造数を限定したレア商品を販売しており、特殊な商品が手に入らない→転売によるプレミアム価格が出現という流れはかねてからありました。

 

 この状況をマーケティング的に考えるとどうなるでしょう?

 

 転売ヤーは高く売れるから投資として仕入れており、ガンプラのファンだからという部分は薄いか、無いと思われます。高く売るためにはA.品薄状態とB.十分な需要が必要です。

Aは転売ヤーが金にものを言わせてコントロールできますがBは消費者側の心理です。

一時的にもガンプラが町から消えるという状況を作ることで、消費者は「高くても、今買わなければ、買えなくなる。」と考えて、必要以上の需要を生み出しているのです。コロナ禍発生時のマスクと同じですね。

 

 では、このままでは市場自体が弱体化しかねない危機を前にメーカーとガンプラファン=健全な消費者ができることは何でしょうか?

 

 ポイントは「時」にあると思います。

 

 要するに「今」店頭にない、「今」しか買えない、「今後」入手できる保証がない、でも「今」欲しいという消費者の気持ちと、

「すぐ」に市場に十分な量を供給できない、「この勢いは失いたくない」というメーカーの思惑をソフトランディングさせる必要があるのです。

 

 このような時に、最近よく使われるマーケティングの手法が「デマーケティング」です。

商品を売らない、一時的に販売停止することで市場の需給ギャップを整え、メーカーとしての姿勢を消費者に伝える手法です。

 

 バンダイスピリットは、まず一時的に新製品やレア製品の販売をデマーケティングの手法で休止して、量を作れる通常販売商品を市場に流通させることを宣言し、そこに生産体制を集中させます。この時きちんとその旨をアナウンスすることが大切です。できればシリーズごとに供給プランを明らかにすると良いでしょう。なにしろ膨大なシリーズを誇るガンプラですから。それでもしばらくは転売ヤーが群がりますが、通常商品を必要以上にストックするリスクを考え始めます。本来模型屋ではありませんから。

 

 次に、「責任をもって商品を国内市場に流通させる」という決意をアナウンスします。消費者がつい今の欲望に負けてプレミアム商品を買ってしまうのは、次にはいつ手に入るかわからないからですので。

 

 ではファンができることは何でしょう?こちらは皆さんが思っている通りです。

明らかに転売目的で買い占められた商品だと感じたら、プレミアム価格で買わないことです。コロナの時のマスクと違って、なくても死にません(笑)
この不自由な状態を作っている連中に儲けさせたくないという想いを持つことです。

ガンプラを育ててきたバンダイスピリットを信じていつかは手に入ると思いながら待つことです。

それが、自分が好きなものを守る一番確実な方法ですから。

 

 このように、売らないでブランドを守ることを考えることもマーケティングの使命なんですね。消費者も買わないでブランドを育てられる…なんてことが実際に起きるわけです。

 最近バンダイスピリットは30年以上前の古い金型を使ったシリーズ(写真に写っているような製品)を中心に集中生産と集中流通を開始したようです。デマーケティングとまではいかなくとも、お店の棚が埋まってくるのは安心できるものですね。

 

 

 

※写真は10年くらい前に押し入れから出てきた弟のモノと思われるガンプラ。
一番最初のシリーズで、今でも数百円で買えていたはず…
後輩の子供さん宛に勝手に送っちゃったような気がします。