新型コロナウイルス感染者は47都道府県で島根県が最も少なく、東隣の鳥取県と競い合っているような構図です。この島根県でも、この第5波では連日新型コロナウイルスの患者さんが入院します。企業や飲食店で発生したクラスターが尾を引いています。入院患者さんの中には肺炎を起こし、まさに生と死の分かれ目をさまよっている方もおられます。

 

 先週、ワクチン接種が進めば、感染防止策を講じた飲食店での酒類提供や県境を越えた移動の自粛撤廃を認めるという案が政府から出されました。一人の医師としてはなぜこのタイミングでと、いぶかしく感じました。医療現場との温度差は赤道直下と南極大陸くらいの差でしょうか。この温度差の原因を考えてみました。

 

 私たちは診療の場面では、最悪のことを想定しながら診断と治療を行います。診断においては見落としや誤診がないように努め、治療においては最悪の事態を想定して行います。低い可能性でも重大な危険である場合には、患者本人やご家族に率直にその内容を伝えます。冷たいようですが、事実をあいまいにすることで患者・家族が行う選択が不適切になり、不利益を与えることを避けています。

 

 期待や希望を持っていただくことは大切ですが、ひとたびその期待が裏切られたときには医師と患者・家族との信頼が損なわれます。良い診療とは、何度も起動修正しながら最善の方法を探すことと思っています。病院で私たちが日々行っていることと、安易に感じるような今回の緩和策に対して温度差を強く感じた結果だと分析しました。

 まだ光は見えない。出口に達するのは今ではない。すべての希望者がワクチン接種を終えたとき、ようやく光が見えるのだと信じて、また今日も診療を行っています。(くま)