セラピストのふゆきさんとホテルに入り、付き合いたてのカップルか?というほどお互いに緊張しつつ(笑)、ふゆきさんが浴室を暖めてくれるなどして私は先にシャワーを浴びることに。

 
あらかじめ段取りや手順を説明してくれて、「貴重品も持って入ってくださいね」とのことで、ちゃんとしてるなぁと思いました。
 
自宅以外で、しかもこんな状況でシャワーを浴びるなんていつぶりのことかわからないし、どれだけ時間をかけていいのかもわからず、真面目に浴室に時計がほしいと思うなどしましたが、脱衣所にもお風呂場にも鍵をかけようという気にはならなかったのが本当に不思議でした。
 
基本的に男性に対してはそれが身内でも他人でも、仕事でもプライベートでも警戒するのが当たり前という生き方をしてきたので、こうまで警戒心を持たなかったのは特殊すぎる状況のせいなのかふゆきさんの人柄のなせる技なのか、今でもよくわかりません。
 
ここでの「鍵をかける気が起きない」というのは、「覗かれても別にいい」ではなく、「ふゆきさんは絶対に無断で扉を開けたりしない」という根拠のない確信によるものでした。
 
シャワーと歯磨きをなるべく手早く済ませて部屋に戻ると、すでに灯りが落とされてテレビも切られ、落ち着いたBGMがかかっていて、さすがだなぁと思いました。
(後から口コミを見て知りましたが、セラピストさん全員がこうも準備万端というわけではないようです。てっきりそういうマニュアルなのかと思って申し訳ない……)
 
ふゆきさんも「すぐ済ませますから!」とシャワーに向かい、私は先程ふゆきさんにもらったミルクティーを飲もうかなと思いましたが、いやせっかく歯磨いたしなとフリードリンクのミネラルウォーターを飲んだり、物珍しさでホテルの備品を物色したりウロウロ……。
 
緊張はいくらかほぐれてきましたが、ここに至ってもこれから何をするのかという考えも実感もなく、実に奇妙な気分でした。
 
不安でもなく不快でもなく、かといってこんな所に若い男性と二人きりで、ときめいているとかわくわくしているとかそういうわけでもない……。
 
やがてふゆきさんも戻ってきて、ベッドの端に並んで腰かけ、ハグしましょうかと言われて有り難く腕を回すと、細いと思っていましたがやっぱり男の人のがっしりとした骨格をしていて、何だか感動してしまいました。
ああ男の人ってこんなだったかなぁ、と。
 
話がやや前後しますが、ふゆきさんにはすでに私がもう何年も男の人とお付き合いもしていなければこういうお店の利用も初めてで、最後に男の人と手を繋いだりキスしたりしたのはいつだか思い出せないくらい昔の話だということは伝えていました。
 
そしてそれらに対するふゆきさんの反応は、もったいないことにうすぼんやりとしか覚えておらず、何を言われたのかも判然としないので何も書けません……人間緊張するとこんなにも記憶が飛ぶものなんですねぇ……。
 
じゃあ指圧マッサージからしていきますねと言われてベッドにうつ伏せになりましたが、やはりこの段でも私の警戒心はゼロ。
 
指圧する力が男の人のそれだなぁと思いながら、セラピストさんに会ったら訊いてみたかったことやら言っておきたかったことやらがたくさんあったので話し始めたのですが、これがふゆきさん、大変聞き上手で、私の生来のおしゃべりの癖が出てしまい、若干反省するレベルでしゃべり過ぎてしまいました。さぞ施術しにくかったのではないかと思います……本当に申し訳ない……。
 
でも、なかなか人にわかってもらえない、何なら主治医にも伝わりにくいような話にまでちゃんとリアクションしてくれるふゆきさんの言葉の当たりの柔らかさは稀有なものがありました。
 
悪気がなくても、何なら善意でも、マイノリティーに向けられる言葉は当人にとって多少なり現実の厳しさを感じさせることが多いのですが、ふゆきさんの言葉にはそれがなく、話すほどに安心感が増しました。
 
その時点で残っていた不安材料といえば、自分のルックスや体のコンプレックス。
 
普段はほとんど肌を出さない格好をしているので、人の目を気にするのは顔や髪や手や腕程度。それ以上を見せる相手なんかせいぜい医者や看護師さんぐらいのもの。
 
けなされることはないとわかっていても、見せるのは恥ずかしいというより怖い気持ちが勝ちました。
 
ふゆきさんがそんな心理をわかっていたのかどうかはわかりませんが、何の話の流れだったか、
 
「しろさんの年齢聞いて驚きました。てっきり20代だと思ってたので」
 
と言われました。
 
30代後半で20代に見えるはお世辞と思われるでしょうが、自慢できるポイントがここぐらいしかないので自慢させてください。
 
ほんとに20代に間違えられるんです。よ!
 
10代20代の頃は逆にうんと年上に見られていて、実年齢を言ったら「サバ読みすぎでしょwww」と笑われたこともあったのですが(ひどい)、30過ぎてから逆転しました。
 
極端な例だと職場の女性社員さんに1年以上20代半ばと思い込まれていた事案もありました。
まあそれは本当に極端な例として、大体20代半ばから後半、ごくまれに前半と言われることもあります。
 
そしていくらなんでも、ナニモ努力シテマセンヨーなんて言いません。してます。
毎日体重計に乗るし、メイク落とさずに寝たりしません。クレンジングも洗顔料も基礎化粧品もあれこれ試して頑張って合うものを探しますし、マッサージしてみたり顔ヨガ?的なことをしてみたり。
 
独身で恋人もいないからこその最後の挟持とも言えます(笑)。
 
だから、20代と言われたことは特別意外でもありませんでした。でも努力が実っているならそれは素直に嬉しいことなので、「ほんとですかーありがとうございます」とお礼は言ったと思います。
 
予測していなかったのはその続きだったのですが、それはまた次回。