久し振りにね、生まれ故郷の実家に行ったのです。
長い事、おいらの母親が、一人暮らしをしていた実家です。
とは言っても、母親は、もう数年前に亡くなっているので、
今はもう、空き家に成っているのですけれどね。
なぜ、そんな空き家に行ったのかと言うと、
母親が亡くなって以降、ずっと放ったらかしていたので、
アチコチ、取っ散らかしたままに成っているので、、
今の内に、片付けられる所は、片付けて置こうと思って、
行ったのです。
だってさ、このまま放って置くと、
だんだん行き辛く成ってしまうしね。
家の中も、片付けなくちゃいけないし、
庭や、畑も、きっと、スゴい事に成っているだろうしね。
今なら、けっこう時間も取れるしさ、
おいらの体だって、今ならまだ動くしね。
やって置くべきだと、思ったんだ。
1週間くらい掛けても、片付けられるモノは片付けて置こうと、
意を決して、汚れ作業をしに、行った訳なのです。
実家に着くと、空き家のはずの実家には、
人が住んでいました。
「どうしたんだろうかね~?」と思っていたら、
それは、おいらの母親だった。
この母親は、明らかに、オバケです。
おいらの母親は、6年前に、急性白血病に罹って、
高田中央病院で、亡くなったのです。
母親は、両手に、弟と妹の手を握ったまま、
息を引き取ったのです。
おいらも、その場で看取ったのです。
だから、この人は、オバケに違いないと思った。
まあ、生きていた頃から、かなりの変人だったので、
オバケに成って出て来ても、おかしくは無いと思った。
ちなみに、おいらの母親は、決して美人では無いです。
イメージとしては、樹木希林さんに、
ちょっと似ている感じです。
オバケの母親は、まるで生きていた頃、そのままのように、
おいらに、言ったのです。
「これから、大量のカツサンドを作るからね。
食材が足りないから、アンタが買って来なさい!」
生きていた頃から、
一度、言い出したら、聴かない性格の人だったので、
おいらには、逆らう気持ちは有りませんでした。
母親に言われた通りに、大量の、カットして無い食パンと、
豚モモロースのブロック肉と、卵と、小麦粉と、パン粉と、
キャベツと、レタスと、トンカツソースと、ケチャップと、
マヨネーズと、マスタードを買って来たのです。
大量の食材を抱えて、実家に戻って来ると、
家には、ガキが、4人くらい集まっていた。
どうやら、近所に住んでいる、ガキ共らしい。
「こいつらに喰わせる為に、カツサンドを作るのか?」
と思ったのだけれど、どうやら、そうでは無いらしい。
オバケの母親が言うには、
「こいつらは、オレが今、教育してるオレの弟子達だよ」
と、言った。
「いったい、何の弟子なのですか?」
と、聴こうと思ったのだけれど、止めた。
聴いたところで、余り意味が無いと思ったし、
そもそも、オバケなんだしね。
オバケの母親が、ガキ共、一人一人に指図をすると、
ガキ共は、素晴らしく、手際よく動くのだった。
ブロック肉を、丁寧に、薄く切って行く奴。
切られた肉に、小麦粉を塗して、卵を潜られて、
パン粉を塗して、中華鍋に入れて揚げて行く奴。
大きな食パンを、綺麗に、切って行く奴。
キャベツの千切りを、ひたむきに続けて行く奴。
オバケの母親は言った。
「のりっ!
何をやっているんだよ!
オマエも、仕事をしろよ!
レタスを洗って、水抜きして置くんだよ」
行きがかり上、言われた通りに、手伝いました。
やがて、ズンズンズンズンと、
余りにも、美味しそうなカツサンドが、
いくつもの皿の上に、山積みに成って行ったのです。
「母さん、あなた、地域の子供たちに、
本当に、イイ教育をしているよね」
と、おいらは言いました。
オバケの母親がね、目に薄っすらと涙を浮かべて、
「そうだろう」って、言いながら、ニヤッと笑ったのです。
その笑顔が、とても気持ち悪くて、
おいらは、目を覚ましたのです。