料理屋さんを出てから、由香さんのマンションまで、
3人で、歩いて帰る途中の、空気は重かった。
なぜ、由香さんは突然、こんな事を暴露したのだろうか?
おいらは、まだ、その事を考えていた。
もしかしたら、由香さんは、
かなり強力な、S体質なのかも知れない…。
しかし、今は、由香さんの事が、問題なのじゃ無い。
佐和子さんを、どう納得させるかが、問題なのだ。
由香さんの事は、後からでも、どうにでも出来る。
何とかして、佐和子さんを納得させなくては成らない。
どうやって、納得させたら良いんだろうか?
由香さんのダイニングキッチンの隣りの部屋は、
ちょっと小ぶりな、リビングルームだった。
何だか、応接室のような感じ。
「ねえ、何か飲む?」
「わたしは、ミルクティーが良いかな」
「オレには、水を下さい」
「佐和子、エアコンをつけてね」
「オレから、話してもイイかな?
全て、オレが悪かった。
ふたりとも、ごめんなさい。
オレはね、佐和子さんの事を、本当に大切に思っている。
だから、佐和子さんの気持ちを最優先させたいんだ。
でもね、佐和子さんと、結婚は出来ないよ。
オレは今、65歳なんだ。
本当に、あと10年か15年で死ぬと思う。
仮に10年としてさ、
その時、佐和子さんはまだ36歳でしょう?
オレはさ、女性が一番、美しく成るのって、
35歳頃だと思っているんだよね。
佐和子さんは、そんな歳で、未亡人に成っちゃう訳でしょ。
いくら何でも、勿体なさすぎるよ」
「ねえ、のり君の奥さんって、いくつなの?」
「オレの女房は、梅子さんって言うんだ。
今、38歳だよ」
「のり君の奥さんも、若くして、未亡人に成るのね?」
「ああ、梅子さんは、その事を分かっていて、
良く考えた上で、オレと結婚してくれたんだ。
オレは梅子さんの事を愛しているし、
離婚する気も無いんだよ」
「言い訳みたいに成っちゃうんだけれどさ、
オレって、どスケベで、セックス大好き野郎でしょ。
でも梅子さんはさ、あんまりセックスが好きな方じゃ、
無いと思うんだよね」
「奥さんは、させてくれないの?」
「いや、そんな事は無いよ。
オレが求めれば、応じてはくれるんだけれどさ、
セックスってさ、両方が満足しないと、
本当に幸せな気持ちには、成れないでしょ?
そう言う意味でさ、100%満足は出来ないんだよね」
「わたしね、男の人と、
こんなに深い話しをするのは、初めてだと思う。
セックスだって、ほとんど経験は無かったし。
男の人って、乱暴だし、自分勝手だし、
あんまり好きじゃ無かったの。
でも、のり君は、凄く優しくしてくれたし、
セックスの気持ち良さも、丁寧に教えてくれたし、
わたし、本当に感謝しているの」
「佐和子さんね、そんな事は無いと思うよ。
男の中にも、優しくて誠実な男は、たくさんいるよ。
佐和子さんには、自分に相応しい相手を見付けて、
幸せな家庭を築いて欲しいんだ」
「わたし、どうやって男の人と、知り合ったら良いの?
全然、自信が無いし」
「佐和子さん、高校は女子高だった?」
「そうだけれど、それが何か?」
「高校時代に仲の良かった友達に、
相談してみるもの良いんじゃないかと思ってね」
「わたし、仲の良い友達って、そんなにいなかったし、
それに、もう年数も経っているしね」