梅子さんを誘って、ちょっと遅めのランチへ。
「そうね~、中華がイイかな~」
「じゃあ、小田原に行こうか?
オレ、小田原に美味しいお店を、知ってるから!」
「何も、小田原まで行かなくても、良いんじゃ無いの~?
湯河原にだって、美味しいお店、たくさん有るよ」
アグリー、本当は、おいらも、そう思っていたのだった。
実は、中華料理に限らず、湯河原にも美味しいお店は、
凄く、たくさん有るのです。
ただね、湯河原には温泉旅館が、たくさん有って、
その温泉旅館の料理のレベルが、抜群に高いのです。
旅館の料理のレベルが、余りにも高いので、
料理屋さんの料理が、それに比べて、低く見られる傾向が有る。
でもね、湯河原の料理屋さんって、
実は、昔は旅館の料理長だったなんて人も、けっこう多いのだ。
だから、小さなお店の店主だからと言って、
決して馬鹿に出来ない事は、多いんですけれどね…。
そうは言っても、普段、自分が良く行くお店じゃ無くて、
ちょっと、高級な中華料理店に連れて行ったのは、
きっと、おいらが意識していたせいなのかも知れない。
いえね、別に良い恰好をしたい訳だったんじゃ無いんですよ。
おいらが、普段、普通に通ってるお店は、
味は抜群だけど、見た目は、みすぼらしいお店が多いのだ。
梅子さんに、イヤな気分に成って欲しくは、無かった。
「あ~、これっ!
こう言うのが、食べたかったのよね~」
そう言って、梅子さんが選んだのは、
「海鮮餡かけ焼きそば」だった。
凄く、良い選択だと思った。
おいらも、そのメニューは、大好きなのだ。
おいらは、紹興酒を頂きながら、
中華オードブルを、オーダーした。
だって、中華料理店に行ったら、当然、紹興酒でしょ。
「ねえ、その焼きそばってさ、
ところどころ、お焦げみたいなところが有るから、
そこが、また美味しいんだよね~」
「う~ん、そうなのかな?」
ちょっと、違和感を感じた。
その違和感は、間違っては、いなかった。
お店を出て、歩きながら、梅子さんに言った。
「ねえ、ちぼりの工場に寄って行かない?
出来立てのクッキーだとか、出してくれるらしいよ」
予想もしなかった言葉が、返って来た。
「のり君さ、さっきコオロギみたいなのを、食べていたよね?
アレ、何なの?
アレ、美味しいの?
美味しいのなら、何でわたしに、くれなかったの?」
梅子さんは、涙目に成っていた。
な、な、何で、そんな事で、泣くんだよ~!