こんにちは。

理学療法士のmasuiです。

このブログでは、私の職場の若手理学療法士Fくんとの臨床教育を発信していきます。

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今回は、ちょっと難易度の高い症例に困っていたFくんに、用手接触技術による患者の反応の違いと、ハンドリングのポイントについてレクチャーした話をします。

症例は、十数年前から複数回脳梗塞を来すも何とか屋内伝い歩き自立していた70代女性で、
今回、右橋梗塞による下肢の脱力と呂律困難にて急性期病院入院後4週で、当院にリハビリ継続目的で転院となりました。
合併症は1年前からの透析療法です。
BMIは22.5なのですが、実際には少しぽっちゃりな印象です。

前院より、右上下肢の軽度の麻痺は元々のもので、今回の橋梗塞で構音障害と失調による立位歩行障害が生じていると申し送られております。

基本動作能力
・起き上がり 自立(スムース)
・坐位 自立(安定)
・靴の着脱やコップの把持 スムースに可能
・移乗 物的支持にて見守りレベル
・立位保持 物的支持にて軽介助
・平行棒歩行 見守り~軽介助も骨盤がだんだん後方に引き込まれていき、右下肢が前に出にくくなる。右足を出す位置も毎回安定しない。

さて、みなさんはここまでの情報で違和感に気づきますか?

私 『あの橋梗塞の人、どう?』

F  『むずかしいです(^_^;)
   立位と歩行が不安定で、右足が出にくいんで、失調によるものなのかなって思ってるんですけど…』


私 『なるほどね。
   ねぇ、あの人、ほんとに失調症状あると思う?』


F  『え?前の病院の申し送りにも書いてありましたし、
   平行棒歩行で右足の出方が不安定なんで、そうなのかなって思ってたんですが(^_^;)』


私 『それじゃダメだよ。ちゃんと検査しなきゃ。
   あのね。
   坐位で靴を履くとき、スムースに足が動いてるでしょ?』


F  『はっ!!そう言えば(^_^;)』

私 『坐位も安定してるしね。』

F  『はい(-_-)/~~~~』

私 『ということは、下肢や体幹の協調運動障害というよりは、立位における姿勢制御とか下肢の支持性の問題の方が大きいのかもしれないよ。』

F  『そうですね(-_-)/~~~~』

私 『じゃあ、いっしょに診てみよっか。』

指鼻指試験、踵膝試験ともに陰性

私 『急性期のときはどうだったのか知らないけど、少なくとも今は失調症状はないみたいだね。』


F  『はい(-_-)/~~~~』

私 『もともと複数回の脳梗塞で伝い歩きレベルだったのに加えて、今回の橋梗塞でさらに下肢筋力が低下して支持性や姿勢制御能力が低下したのかな。
   ちょっと僕が歩かしてみていい?』


私は、症例の右手を背屈位で把持し、右上肢介助(添える程度)で、左片手すり歩行をしてもらいました。
すると、ゆっくりの速度なら、姿勢保持も右下肢の振り出しもまっすぐ可能でした。

私 『なるほどね。
   下肢の支持性はめちゃくちゃ悪いわけじゃないね。
   もともとのこの人からしたら、少し下肢の支持性が低下した程度なんだろうけど、
   一番の問題は現状の下肢の支持性で、どうやって立位、歩行時の姿勢を制御をするのかがコントロールできていないところだね。
   これは、たぶん橋梗塞の影響だよ。』


F  『なるほど。』

私 『どうやって制御するのかがわからないときというのは、簡単に言えば、「脳はまっさら」みたいなもんだから、今は、現状の下肢の支持性に見合う正しい姿勢制御の学習が大事なんだ。
   逆に言うと、変な姿勢制御をやらせてしまうとどんどんおかしなことになる。
   自分で平行棒歩行をさせたら、どんどん姿勢が悪くなって足が出なくなるのは、筋持久力や体力の問題じゃないと思うよ。
   そして、今のこの人に立位や歩行を練習させるときのポイントは、右手を使わせちゃダメってことだね。
   右手で手すりを引き込むのが一番よくない。
   だから、一回僕がやったみたいに歩行練習してみてくれる?』


F  『はい。』

ところが、Fくんに、私と同じように症例の右手を背屈位で把持し、右上肢介助(添える程度)で、左片手すり歩行をしてもらうと、立位姿勢は骨盤が後方に引き込まれてしまい、右下肢が前に出なくなってしまいました。

患 『なんでこの人やったら足出えへんの~(T_T)』

私 『(^_^;)ちょっと一旦中断しますね。
   Fくん、一回僕の手を介助してみて。』


私 『なるほど。
   まず、右手に触れる手の、用手接触がダメだね。皮膚を引っ張ってる。』


F  『えっ?そうですか??』

私 『うん。微妙だけどね。
   それと、歩行時に上肢を引っ張ってもダメ。引っ張ったら引っ張り返されて、引き込み姿勢になるんだよ。』


F  『全然、意識してないんですけど、難しいですね(^_^;)』

私 『もう一回、患者さんと練習してみてダメだったら、別の方法を考えよう。』

F  『はい。』

慎重に右上肢介助での左片手すり歩行をすると、1,2歩は改善するも、途中から少しずつFくんが右上肢を引っ張ってしまい、患者はそれに対して引き込み姿勢をとり、足が出なくなりました。

私 『やっぱり、すこし引っ張っちゃってダメだね。
   じゃあ、Fくんがこの症例を治療していくには、ハンドリングじゃなくて別の方法を考えよう。』


F  『はい、たしかに、今自分が引っ張ってるのが分かりました(-_-)/~~~~』

私 『とりあえず、しょうがないよ。また少しずつ練習すればいいし、ハンドリングだけが唯一の治療手段じゃないんだから。
   でも、ちゃんと少なくとも用手接触技術は練習するんだよ。
   接触面で皮膚を引っ張ってしまってたら、それに対する反応が出ちゃうからね。』


F  『はい!』

はい、とても長くなってしまったので、この続きは次回の記事にしますね。

ハンドリング(徒手操作)とは、過度な介助(他動)ではなく最小限の刺激で患者の反応(能動)を生起しやすくするものであり、これは、患者が楽に動けるだけでなく、脳の賦活も促進していると言われています。

このとき、触り方(用手接触技術)が適切でないと、非接触者(患者)は、接触者(セラピスト)の意図した方向への誘導や動き方に無意識に抵抗してしまいます。

脳血管障害患者の場合には、この『抵抗した姿勢、動き方』の学習が強化される恐れがあります。

そのため、ハンドリングを実施するにあたっては、まず用手接触技術を修得することが重要となります。

用手接触技術とは、種々の評価、治療において徒手的に患者に触れる際に、正しく対象組織に圧をかけ、正しく対象組織を触り分けるものであり、理学療法士にとっては基礎技術の一つですね。

第10回 でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。


次回のブログは、今回の続きで、この症例にハンドリング以外の方法で立位、歩行能力の改善を試みた話から、動作障害の理学療法の戦略の基本的な考え方について解説いたします。
テーマは、『基本的な動作障害の理学療法の戦略とは!?』です。

乞ご期待!