こんにちは。

理学療法士のmasuiです。


標準的な理学療法プロセスと、その臨床実践に必要な基礎知識を整理したmasui PTの電子書籍はコチラ

【再考 標準的理学療法】



ホームページはコチラ

【masui PT 理学療法 シン・スタンダード】

このブログでは、この春、私の職場に入職した、Fくんの臨床教育としてのフィードバックを、発信していきます。


今回は、慢性期CVA患者の歩行や運動機能改善を図り、Fくんといっしょに評価治療した時の話です。


患者のVさんは、陳旧性心原性脳塞栓症後遺症で、住宅内で転倒し、倒れてきた冷蔵庫に足をはさまれたたことによる左下腿筋肉内出血後蜂窩織炎後、歩行能力が低下したため歩行能力向上による在宅復帰を図り当院に転院となった70代男性です。

既往、合併症は、心不全、心原性脳塞栓症(約10年前)、左片麻痺です。

ブルンストロームステージ(Brs)上肢Ⅳ、手指Ⅱ、下肢Ⅳ。

受傷前のADLは、屋内独歩、階段昇降手すり使用にて2足1段自立、屋外杖歩行レベルです。


初回理学療法時

機能障害

A 杖歩行見守り~軽介助

  A1 左下肢遊脚クリアランス、分離運動不十分

  A2 左立脚期(中期以降)の股関節伸展不十分、体幹前傾

  A3 左足底の荷重面が外側編位(この時点ではFくんにはA3を観れていない。)

B 階段昇段手すり使用2足1段で見守り、降段手すり使用2足1段で軽介助

  B1 左下肢の振り上げ不十分

C 体力低下


Fくんの理学所見

①左足関節背屈0°

②左大殿筋筋力低下MMT3レベル


Fくんの評価

今回の受傷、元々→①

左片麻痺→②、A1

①②→A2


私 『A2の原因を殿筋の筋力低下にしてしまうのは良くないなぁ。

   殿筋の筋力低下が影響するなら、立脚初期から体幹が前傾するはずでしょ?』


F  『あっそうですね(-_-)/~~~~

   じゃあどう考えていけば良かったでしょうか?』


私 『まずは股関節伸展可動域もちゃんと診てごらん。』


F  『さっき診たときはとくにROM制限はなかったのですが(^_^;)』


私 『ほら、ちゃんと股関節屈曲伸展関節運動の関節構成運動を出して動かせば、ここ(伸展-5°)で止まるでしょ?』


F  『たしかに。』


私 『どこに制限を感じる?』


F  『えっと…分かんないです(-_-)/~~~~』


私 『仙骨の前傾が止まってるから、股関節伸展運動も止まるんだよ。

   で、仙腸関節の可動性を診てみると、仙骨前方辷りが止まるときに腰仙関節の動きが悪いことが分かる。

   腰仙関節を診てみると、L4/5の動きが悪い。

   このL4/5においては、関節アライメントの編位が原因だ。』


F  『言われながら触ってると、なんとなく分かります(^_^;)』


私 『L4/5のアライメントを修正して、腰仙関節と仙腸関節のモビリゼーションをしてから、股関節伸展を診てみると…』


F  『あっ、動きますね(^_^;)』


私 『足関節の可動域制限も、ちゃんと足関節、足部のアライメントを整えた状態で動かしてみると、何が問題で可動域制限が生じているのかが分かる。

   ほら、左腓腹筋のこの真ん中くらいの線維束に短縮があるね。』


F  『たしかに。

   でも、masuiさんが足関節、足部のアライメントを整えてくれてないと、分かんなくなりますね(^_^;)』


私 『他には、左大腿四頭筋のアライメントが内旋編位してるよね。

   左腓腹筋の短縮は伸張刺激による成長を待つ必要があるけど、大腿四頭筋のアライメントは今日治せるね。

   ちょっとやってみて。』


F  『はい。』

Fくんは徒手的に大腿四頭筋のアライメントを修正しました。


私 『よし、じゃあもう一回歩いてもらおうか。』


仮治療後歩行

A 杖歩行見守り

  A1(左下肢遊脚クリアランス、分離運動) 70%改善

  A2(左立脚期(中期以降)の股関節伸展不十分、体幹前傾) 80%改善

  A3(左足底の荷重面が外側編位) 変化なし


ここまでの評価をまとめると、

理学所見

①左足関節背屈0°

②左股関節伸展-5°

③左腓腹筋短縮

④左仙腸関節、両腰仙関節、L4/5、4/3の可動性低下、L4/5アライメント編位

⑤左大腿四頭筋アライメント内旋編位


評価

元々、今回の受傷→③→①→A2→A1

受傷後の廃用→④→②→A2→A1

元々、受傷後の廃用→⑤→②、B1→A1


私 『麻痺による筋力の問題だけじゃなくて、ROMの問題による動的アライメントの問題と、動的アライメントの問題による筋出力の問題が大きかったね。

   筋トレや麻痺に対する介入をしなくても、ちゃんと歩行が変わったでしょ。』


F  『そうですね(^_^;)』


私 『残りの部分は、さっき歩きながら仮介入して確認したけど、左上肢帯の問題だね。

   上肢帯の問題は明日診てみよう。

   腰の問題はたぶんもう大丈夫だから、あとは上肢帯の問題と、腓腹筋の短縮と左足底の荷重面の改善、そして、少しずつ活動量を設定していって体力を回復してもらったらOKだね。

   上肢帯の治療はちょっと複雑だから僕が対応するよ。』


F  『はい。

   明日のmasuiさんの上肢帯の治療見学していいですか?』


私 『もちろん。また時間を連絡するね。』


はい、今日の臨床教育はここまでです。

CVA患者、片麻痺と聞くとそれだけで苦手意識を持ってしまって何をしていいか分からなくなる方が多いのではないでしょうか。


CVAの運動機能障害は、急性期には、閉塞血管の再開通、出血の吸収、側副血行、血管新生、浮腫の軽減、ショックの回復により得られます。


その後は損傷した神経細胞自体は回復することはありませんので、厳密には麻痺は治りませんが、治療訓練により残存脳領域による代行作用は生じる可能性があります。


また、CVA患者の異常筋緊張とは、脳障害による一時的なものと、随意的にうまく運動コントロールできないからだを何とかしようとした結果の二次的なものが混在したものであり、これには、身体図式の再構築と、新たな姿勢・運動コントロールを探索、学習させることが重要です。


動かない体肢については、動かせるからだの部分を上手に使って、モノを操作するように、その動かし方や、それの向きや格好を知覚できないかを探索、学習する必要がありますが、まずはその動かない体肢の重みを支えた状態での身体バランス制御を獲得する必要があります。


また、運動機能を有しながら使わないことに慣れてしまった「学習性不使用」という状態や、活動量減少による筋弱化については、トレーニングと生活活動の見直しによって改善性があります。


身体図式の再構築や、姿勢・運動コントロールの探索と学習、筋弱化に対する強化訓練などが「動かない」ことに対する療法士の直接的な介入ではありますが、その前のコンディショニング調整は非常に重要です。

関節や軟部組織のアライメント、可動性、伸張性などを整えることは、身体図式を整え、姿勢・運動コントロールを探索、学習するための知覚循環のベースになります。


慢性期CVA患者のからだは、歪み、縮み、固くなっています。

これらをちゃんと治すだけでも、歩行や運動機能はその分改善します。

私たちが何を治せるのかをちゃんと理解し、それが歩行や運動機能にどう影響しているのかを統合と解釈し、正しい治療技術を選択することが大事ですね。


さて、次回のブログは、今回の症例Vさんの上肢帯の問題に対する治療を解説いたします。

テーマは、『ウェルニッケマン肢位(上肢帯)を治療する』です。


乞ご期待!