こんにちは。
理学療法士のmasuiです。
このブログでは、この春、私の職場に入職した、Fくんの臨床教育としてのフィードバックを、発信していきます。
今回は、理学療法が呼吸障害の患者に対して何を改善させられるのかをFくんに解説しました。
患者のTさんは、左肺炎で高度急性期病院入院後、抗生剤治療にて病状(炎症所見、SpO2等)安定したが入院前よりADLが低下したため、リハビリによるADL改善を図り当院に転院した80代女性です。
既往、合併症に僧帽弁・大動脈弁置換術後があります。(今回うっ血所見はありません。)
今回は私の初回理学療法の結果をFくんに申し送りする場面です。
私によるTさんの初回理学療法内容は以下の通りです。
治療前
機能障害
・起き上がり介助。
・坐位自立も息切れ、腰痛あり。
・移乗中等度介助。下肢の支持性はあるが立位保持は介助要、下肢のステップはあるが出にくい。
理学所見
・左胸郭の著しい可動性低下
・左仙腸関節、左下位腰椎、上位胸椎、下位頚椎、ほぼすべての肋椎関節のアライメント偏位。
・右の胸郭、脊椎の可動性、アライメントの問題も少しあった。
仮治療
・仙腸関節、下位腰椎、上位胸椎、下位頚椎、ほぼすべての肋椎関節のアライメント修正、
・胸郭の他動運動
仮治療後機能
・起き上がり可能
・坐位自立 息切れ、腰痛ともに軽減
・移乗見守りレベル 立位保持、下肢のステップ可能
・平行棒歩行、片側手すりを両手で把持しての歩行 見守りレベル
F 『相変わらず、初回で結果を出しますね(^_^)』
私 『今回、とくに興味を持ってほしいのは、「息切れ」が改善したというところなんだよ。』
F 『胸郭の可動性が改善したから、ですよね?』
私 『そうなんだけどね。
それをもっと具体的にちゃんと説明できることが大事なんだ。胸郭の可動性が改善すると、何が良くなるから呼吸機能が改善したのか。
これを学際的に説明できるアウトカムで表現することが大事だよね。』
F 『学際的に説明できるアウトカム、ですか。』
Tさんの場合は、仙腸関節、下位腰椎、上位胸椎、下位頚椎、ほぼすべての肋椎関節のアライメント修正と、胸郭の他動運動を行ったことで、カチカチだった左胸郭の可動性が改善したんだよね。』
私 『そのことで、直接改善したのは、左肺へのair入りと一回換気量、それから背部痛と、坐位、立位姿勢、動作時の運動パターンの改善と考えられる。』
F 『そうですね。』
私 『左肺へのair入りと一回換気量の改善は呼吸苦(息切れ)を改善するよね。』
F 『ということは、左肺へのair入りと一回換気量が改善したっていうことが大事なんですね。』
私 『うん。さらに、背部痛の緩和もリラクセーションの獲得につながるから呼吸苦の軽減に貢献するし、坐位、立位姿勢、動作時の運動パターンの改善は、坐位、起立、立位動作能力(効率)の改善につながるから、動作時のエネルギー消費が減少し、これによっても呼吸苦が軽減する。』
F 『なるほど。』
私 『つまり、Tさんの場合は、左胸郭の可動性が改善することで、左肺へのair入りと一回換気量が改善し、さらに背部痛の緩和や坐位、立位姿勢、動作時の運動パターンの改善によって楽に動けるようになったことで呼吸苦(息切れ)が軽減した、と言える。』
F 『たしかに、それだと理学療法士以外の方に、理学療法が何をもって呼吸障害を改善させるのかが分かりますね。』
私 『だけど、肺や心臓が治るわけでもないし、炎症が治まるわけでもないし、栄養状態が直接改善するわけでもないし、円背もある程度残存する。』
F 『たしかに。』
私 『このように、理学療法は、呼吸障害に対して何を改善させることができ、何ができないかを理解した上で、評価、治療選択、治療計画し、医師などの他職種との連携においても適切に説明すれば、情報交換、連携、信頼関係の構築がスムースになる。』
F 『なるほど。』
私 『僕たちが治療できないところは、医師、薬剤師、栄養士などが診てくれるし、看護師さんは各専門家たちの方針と情報を聞いて入院療養生活を管理してくれる。
これがチーム医療だよね。』
F 『理学療法士だけで患者さんの疾病、症状をすべて治療できるわけじゃないということですね。』
私 『Tさんは、左胸郭の柔軟性と可動性をフォローしながら、離床、歩行練習をすれば、早期に退院できそうだね。
ポータブルトイレ排泄もナースコール対応でやってもらっておいて、あとは手放し立位が安定すれば、トイレ排泄も自立になるから、そのタイミングで退院前訪問指導をしたらいいね。』
F 『初回でそこまで予後の見通しがつくとスムースですね(^_^)』
はい、今日の臨床教育はここまでです。
理学療法によって改善させられる呼吸障害の要因としては、まず、胸郭の可動性、それによるair入り、一回換気量、流量の増加に伴う排痰が挙げられます。
COPDなどの呼気障害に伴う残気量の問題は、口すぼめ呼吸で改善します。
また、姿勢、運動パターンの改善に伴う動作能力(効率)の改善は、エネルギー消費を減少させます。
運動による筋持久力の改善で運動耐用能向上だけでなく、上記のような呼吸障害の要因に対する治療も検討してみるといいですね。
ただし、本文でも述べたように、肺や心臓が治るわけでも、炎症が治まるわけでもないということも、併せて理解しておくことが、より機能的なチーム医療のためには必要です。
また、理学療法がその疾病や症状に対して、どのように貢献できるかを示すには、学際的に説明できるアウトカムを用いることが必要です。
そのためには、専門用語だけでなく、疫学も勉強していかなくてはなりませんね。
さて、次回のブログは、関節可動域制限の原因の一つになり得る、筋の可動性の関節運動時の役割と、その治療法について、私の持論を踏まえてFくんに指導いたしました。
テーマは、『筋の可動性の働き』です。
乞ご期待!