夢を乗せて走るはずの夜行列車が、恐怖の舞台に『夜の樹』カポーティ | 白鴉(shiroa)のビバラムービー

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百年文庫『夜』より。

 

しろあです。

 

テーマも作者も期待値の高い作品がそろった百年文庫の『夜』。

トップバッターはトゥルーマン・カポーティです。

文学ファンといわず、映画ファンならばこの名を聞けば「ああっ!!」とつい声をもらすかと思いますが、

ヘプバーンの名作『ティファニーで朝食を』の作者ですな。

 

当時はアメリカの文壇では売れっ子、若い女の子を奔放に描いた作風は今回紹介する

『夜の樹』でも顕在。ですが、この『夜の樹』はかわいそうに恐ろしい目にあってしまうのです。

 

 夢を持って家を出て。ギターを持ち家を夜行列車に乗り込んだ少女。

 新しい新天地での生活に胸を高鳴らせていたが、電車の中はほぼ満員。

 仕方が無いか、と相席してくれそうな人を探す。

 そこで大男と老女が座ったボックス席を見つけ、そこに座ることになった。

 

奇妙な風体の二人。ここから少女の恐怖ははじまります。

ちなみに少女は確か19歳くらいだったと思います。そう考えると、本当にかわいそう。

 

 二人が何者なのか? そう思っていると老女は少女に話しかけてきた。

 連れの男は旦那だけど、耳が悪くて喋れないんだ。

 男はじろりと少女を見る。聞えない、話せないとはいえ、その目には感情が確かにあり、

 何を考えているのかわからないことがさらに恐怖をかきたてる。

 男とはうらはらに老婆はとにかく喋った。

 「ところで私たちはどんな仕事をしてると思う?」

 

別に知りたくもないですよね。そんなことよりはやく寝たいでしょう。

夜通し走る列車の中、目的地までこの二人と一緒にいなければいけないというのは苦痛でしかありませんね。

 

 老婆は語る。自分たちは町から町へ渡り歩き、ある興行を行っているという。

 その興行とは死人が生き返る、というもの。

 町につくと人を集めて穴を掘る。その穴の中に男を生き埋めにする。

 翌日掘り起こし、男は息を吹き返す。

 それを見た観客がおひねりを出す。

 

 「今のところうまくはいってるけどね。じきこの男は死ぬだろう」

 男に聞えているのか? 老婆は平気でそんなことを言う。

 

ちなみにちょくちょく少女は老婆に絡まれいやな思いをしてます。

具体的にはあまり覚えてないんですけど、食べ物をとられるだとか、ギターを触らせろか弾いてみろだとか、

そんなことがあったと思います。いずれにせよ不快ですよね。

二人の秘密が少し分かったのですが、それは尋常じゃないバケモノであることが分かったようなもの。

少女はなんとかここから脱出しようと試みます。

 

 「あの、わたしそろそろ向こうの車両にうつらないと。友達と約束してるので……」

 そう少女がいいわけすると、老婆はぴしゃりという。

 「嘘だね」

 電車の車内でありながら、密室のような空間。監禁に近い状態。

 男が何やら取り出す。

 「これを買って欲しいってさ」。

 はじめは拒む少女だが、精神的に追い詰められ涙ながらに「買います、買いますから」と嘆く。

 ……、列車は走り続ける。

 

物語はこの辺でぷつりと途切れます。

奇跡的にスーパーヒーローがやってきて少女を救う、とか。

機転を利かして立場を逆転する、とか。

そういうことは一切なく、ああ、こんな感じでこの後の時間も到着まで続いたんだろうな……

という余韻の中、物語は終わるのです。

 

 気分悪っ!!

 

この気分の悪さも、まぁホラーと言えばホラー。

 

なんでカポーティがこんな話を書こうと思ったのかよくわかりませんが、

恐怖譚としては非常に優秀で、並みの怪談よりも圧倒的に怖い。

よく言われますけどネ。お化けよりも人間が怖いって。

 

 常軌を逸した人物、監禁状態の車内、逃げられない!

 

このシュチュエーションの実験だったとすれば大成功ですな。

怖いお話が読みたい方にはおすすめです。

余韻も含めて、おすすめです。

 

 

 


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