『パトロール』    かねつぐ司


 歩道に斜めに乗り上げて停止した二台の警察

 車両。それぞれのドアが開き、かがみ走りで四名の捜査官が銃を片手に踊り出て、建物の壁に背をつけた。シドニー市内のある一角。

 二階の窓ガラスから顔を出す覆面男三人が二台の車両目掛けて容赦なく連射銃の雨を撃ちまくって二台の車のトップは蜂の巣の様になってしまった。最終局面と捜査官達は強く感じて互いに目配せをした。

 ピットストリートのアジトを特定したのは三時間ほど前だ。ギャングの指示で日本からの人口ダイヤモンドの小箱を受け取りにオーストラリア・ポストへ向かわされた青年がシドニー・シティー警察管区の捜査官待機所に飛び込んできて、助けを求めたからだった。捜査官待機所に転がり込んできた青年の、恐怖に歪んだ表情と、震える声で告げられた人工ダイヤモンドの話。四人の捜査官を筆頭にその密輸案件を追っていた署内は色めきたち、ギャングのアジトをすぐに叩く事に異論はなかった。日本の警察庁から事件性を共有して欲しいとの国際要請という要望があってからこの署では威信をかけてこれを捜査していた。近年増えた日本女性のオーストラリア内での出稼ぎ買春、および、詐欺拠点、捜査官達は元は一本の線にあると睨んでいた。綻びを待っている最中のことだった。すわ、と青年を保護し、聞けるだけのことは聞いた。そして、先発隊として四人はこのターゲットのアジトへと踏み込んだのである。


 再度敵は四人を狙い、自動小銃を狙い撃ったが、それは全弾外れた。内部の様子が分からないだけに、捜査官達も催涙弾を窓へ投げ上げるわけにはいかなかった。しかし、一つ成功したと思えたのは、敵がああも二階で頑張って一連の行為を続けてくれれば、そこに油断は生じる。ひと棟を挟んだ先の建物の高い位置に狙撃隊を配置してあったからだ。あとはタイミングの問題だろうと思った。しかし二階からの乱射で狙撃は無かった。スタンバイに遅れたのだろう。ニールセン捜査官の無線に狙撃隊から連絡が入った。部屋の中はよく見えるとのこ

とだ。だが悪い予感は的中しており、日本人らしき女性の髪の毛を掴んだ覆面男がその彼女を引き摺り回しているという。隣のミラー捜査官もその無線を聞き取って、建物の左方へにじる様に距離をとり、離れていった。ミラー捜査官はビルとビルの間の空間まで退いて、その隙間に何か手筈はないかと求めに行ったのだ。だが、めぼしきものはなく、ミラー捜査官はそこで息を潜めた。まてよ、とニールセンは思った。ではなぜ女性の悲鳴がしないのだ? ニールセンは狙撃隊と無線でその点に関して話した。「覆面の大柄な男は確かにアジア人女性の髪を何度も引っ張り、乱暴をしている」と言う狙撃手。

 ニールセンはそれ以外のものが見えるかと聞いた。狙撃手は、あとは覆面男達だけだという。ニールセンは賭けた。「撃て」であった。同時に階段を駆け上がるニールセン。同僚二人も後を追った。二階のドアを蹴り開けたニールセン。そこへ同僚二人が先行して突入した。ミラーはわざと通りを大回りした。先輩ら三人の援護のつもりだった。敵がミラーへ向けて自動小銃を向けるなら、ドアから中へ入ったニールセン捜査官達他二名へ背を向けることになる。心理的挟み撃ちだった。確かに窓から一人が自動小銃を向けて来たが、瞬間乾いた音と共に上空から飛来した狙撃の弾丸に眉間を撃ち抜かれて、小銃を抱えたまま地面へとそれは落ちてきた。

 ミラー捜査官がニールセン捜査官達の後を追い、二階へとステップを踏み込もうとした途端、ミラーの視界に飛び込んだのは、三階の階段から自動小銃を抱えた別の男が部屋に入ろうとしているところであった。ミラーはマグナムを構えて銃撃し躊躇なくそれを吹き飛ばした。コンクリートの階段導線あたりが真っ赤に染まった。構わずミラーは駆け上がった。

 ニールセン捜査官達は居汚い笑いをしながら言葉にならないことばを発している狂人を目の前にしていた。ニールセンは真っ直ぐに銃口をその男へ向けていた。既に覆面男は一人この部屋でも死んでいた。同僚捜査官のどちらかが撃ったのだろう。薬莢の散らかりと血の匂いで咽せ返るような有り様だった。四人の捜査官が見たのは居汚いと男とそれの差し出す人型の物体だった。アジア人女性の切断された頭部の下に詰め物に服を着せた物体であった。ニールセンは男の頭部から銃身を下げ、男の足の甲を一発撃ち抜いた。今までの騒動は何だったのかというほどに、男は持っていた撹乱具を投げ出して自分の撃たれた足を抱えてひっくり返ると、聞くに耐えない、喚きとも、泣きとも、どうにも表現に難しい「雑音」を上げまくってのたうっていた。ミラー捜査官は、蜂の巣にされた車へ戻ると、毛布を抱えて戻ってき、女性へ十字を切って毛布で包んだ。

 到着している後続が規制線を張り巡らしている。内部の詳細な捜査、捜索も、とりあえず引き継いだ。四人はそれぞれ何台かに分かれてパトロールカーに乗り込み署へと向かった。

 ニールセンの鼻をつんと突くものがあり、目が潤んだ。シドニーの空は今日も青い。人の姿も軽装だ。皆それを満喫しているようだ。ニールセンは左後部座席に深く背もたれている。道脇をゴミの数々が風に吹かれて飛んでいた。


 パトロール 了