ネクタイ外して野良へ・(42)・・手で押したら直ってしまった
屋根の頂上部分がまっすぐでなく、歪んでいることは分かったいたが、野地板を張ってしまった今になって、どうにもならないので、屋根を葺くときトタンを被せてしまえば、少々歪んでいてもどうということはないと思っていたのだ。
目を屋根の上にすかして曲がっていても、少し遠くに離れて見ると分からないから、この程度ならいいのだろうなどと考えていたが、さすが屋根葺き職人、ともかくまっすぐでないと、仕事はやれないというのである。
どうも屋根葺きにかぎらず、大工や左官、建具などの職人という人間には「曲がったことは嫌いだ」という人間が多い。ぼくも曲がったことは嫌いだが、曲がってしまったことはしかたがないではないか。
「屋根の左右の寸法違いは、端の方の野地板を外してやり直せばなんとかなるが、この梁の歪みはやっかいだねえ・・・・」
さすがの信也さんも頭をかかえ込んだ。
「この程度の歪みだったら、頂上部分に幅のある屋根材を張ったら何とかなるんじゃあない?」
「けど、まだ外壁は張っていないし、屋根の下に回って手で押したら直るかもしれん」
「手で押しても、そりゃあだめやろ。そんなにやわには作ってない」
まがりながらも、延べ床面積20坪はある建物である。犬小屋とは訳がちがうのである。
ぼくも、勤めの合間の日曜大工であっても一人でここまでやったというプライドのかけらはある。それを、手で押したら歪みが直ると言われちゃあお終いである。
だが、信也さんはぼくの言うことに耳をかさず、この建物のあちこちを見ていたが、「よし」と決めたように言った。
「やっぱり、手で押してもこりゃあ無理だろう」
ぼくはまるで人ごとのように言ったが、これだけの建物が手で押しただけで歪みが直ったら、それこそ「何じゃあこりゃあー」である。
ところが、何と信也さんは本気で手で押して直すつもりである。
「そこ支えて」
「そっち押して」
「そのタルキ取って」
「そこビスで止めて」
「こっちも押して」
「ここ引っぱって」
などとぼくに指示して、あちこち押したり、引いたりしたあげく、何と建物全体の歪みが直ってしまったのである。
「とりあえず、今日はこれくらいにして様子を見てみよう。ところで今度の火曜日、昼からでも休みとれませんか。火曜日だったらぼくも来れるし」
「火曜日・・ああ大丈夫」
「それじゃあ、今度の火曜日に、ラスシート張って屋根の下地を仕上げようか」
そういうと、信也さんは昼前に帰っていった。

