ネクタイ外して野良へ・(26)・柱はまっすぐに立っているのか?
しかし、このときはそんな感動にひたってはいられない、気絶したままのドーリさんを車に乗せて病院に駆け込んだ。
倒れた時に額を少し切っていたが、縫うほどのこともなく、その後意識ももどり、後遺症もなかったので安心した。あまりの緊張感のために失神していたのである。
いやあ、それにしても見事な根性である。
後になって、この天文台の建設にいきさつのことは、拙著「引き継がれるロマン」と「太陽の鼓動」の中で書いたが、この気絶事件のことには触れなかった。それはこの事件があまりにも生々しかったことと、本人の名誉のためでもある。
いずれにしても、こうして「天文台気絶事件」は終わったかに見えたが、それが実は終わっていない。
何かことあるたびに、ドーリさんはこときのことを口にして
「そんな重いことを私にさせる?」
などと言って、ぼくを責めるのである。もう20年も前のことである。
だから、この柱を立てるときも、ぼくも、ドーリさんも内心このときのことを思い出していたのである。
ぼくも、こんな山のなかで気絶されるのもいやだから、これ以後は重いものを支えるなどという「ドーリさん見事、気絶事件」につながる作業はできるだけさけて、その柱が重かろうが何だろうが、できるだけドーリさんを遠ざけて自分一人の腕力でやることにした。
そのかわり、ぼくの建てた柱や梁がまっすぐになっているかを、離れてみてもらうことにしたが、あまりじっと見てもらっていると緊張のあまりか
「気持ち悪い・・・・目がまわる・・・・・」
などと言い出す始末で、彼女には「まっすぐ」などという基準がなく、「まっすぐ」なのか「曲がって」いるのか見分けがつかないので、これで後々弱った。
「まっすぐ」なのか「曲がっているのか」正確には分からないが、それでも離れて見ると、まずまず立派に立っているので作業を進めた。
素人造りの上、柱の大きさも9センチ角だったので、強度が心配で思いっきり柱の数を多くした。
9センチ角の柱の長さは4メートルで、この柱で二階建てを建てようというのだから、建物の床からの高さがそれぞれの階で2メートルしか取れない。
普通の家だと床から天井までの高さは2.7メートルくらいあるから、それと比べても随分と低いものになってしまう。
まあ、安い材を使って建物を建てようとすると、このくらいの不都合は出てきて当然である。しかしそれにしても2メートルではあまりにも低すぎるので工夫が必要である。
1階部分はコンクリの土間だから、基礎のブロックの上に柱を立てれば、天井までの高さは2.2メートル程度にはなる。この20センチの差がなかなかのものである。
2階部分は、屋根を合掌造りとするので、柱の高さに梁を通し、その上に1メートルの合掌の柱を入れれば、中央での屋根までの高さは3メートルとなる。それに天井は張らず、屋根の裏地が丸見えの、いわば山小屋風造りなので、この高さは圧迫感のない十分な高さになるはずである。



