『路地へ 中上健次の残したフィルム』2000,青山真治



四方田犬彦さんのパゾリーニ講座で抜粋が追悼上映されて一見。パゾリーニのボルガータと中上健次の路地との比較検討と青山真治。それ以来、どうしても全編を通しで観たくてDVDのリリース元の紀伊國屋に掛け合ったが既に久しく絶版。ネットの中古マーケットで時折見かけたものの定価の3倍以上でさすがに手を出しかねていました。それでも今回目を瞑って、エイヤアで購入。

鑑賞し始めてからずっと息が止まり胸が締め付けられるような64分でした。

なんといっても中上健次が生前残した16mmフィルム片が素晴らしかったです。素晴らしいなどという陳腐な形容詞しか浮かばない自分が情けないです。なぜ私が中上を好きなのか、理由はよくわからないのですが、中1の夏にエッセイを初読して以来、彼の愛したコルトレーンや坂口安吾を私もまた愛するようになりました。その中上の残した路地です。感傷と通俗で飾られたノスタルジーでは説明のつかない物語の始源を孕む胎動を感じさせながらも極めて散文性の高い路地。

この既に経年劣化でフィルムの色焼けも激しい中上のフィルム片に、2000年現在の新宮へのロード・ムヴィーとして青山真治のフィルムが重なってくるのです。そうです。あの青山真治にしか表現できない瑞々しい滴るような湿度を含んだ緑と露光を極端に開けたハレーションの混じる異界への通り道のような田村正毅の手持ちキャメラが新宮に慎ましやかに“侵入”してくるのです。

山〜里〜集落〜海岸〜海〜堤防。紀州でしか見ることのできないこれらの風景群をたった1ショットのゆっくりとしたパン撮影で観せてくれます。この1ショットで青山がどれほど中上を愛していたかがハッキリと明証され刻印されています。そして新宮市内。既に路地が消滅した20世紀の最終盤の時間軸の中で、中上健次のいない中上健次の姿を求めてキャメラはひたすらに漂泊しているかのようです。

  予告編



  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督
青山真治
構成
青山真治
「路地」小説
中上健次
プロデューサー
越川道夫
佐藤公美
撮影
たむらまさき
16ミリ撮影
向井隆
「路地」映像
中上健次
録音
菊池信之
編集
山本亜子
制作担当
吉岡文平
藤田雄己
字幕
リンダ・ホーグランド
朗読
井土紀州
キャスト
井土紀州
製作年
2001年
製作国
日本
配給
スローラーナー
劇場公開日
2001年8月11日
上映時間
64分

  解説


作家・中上健次が小説の舞台とした路地を、映像作家・井土紀州が訪ねる長篇ドキュメンタリー。監督・構成は「EUREKA」の青山真治。撮影を「SELF AND OTHERS」の田村正毅が担当している。2001年8月4日より大阪・扇町ミュージアムスクエアにて先行上映。一部16ミリからのブローアップ。

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