『キートンの探偵学入門』Sherlock Jr.,1924,バスター・キートン



人類の宝とはこういう作品のことをいうのだと思います。この奇跡のような作品が劇場のスクリーンを通して鑑賞できる幸福を噛み締める。映画の全てのエッセンスが過激に濃縮されてこの僅か45分のフイルムに定着している。この作品からどれだけのパロディやオマージュが作られてきたのだろうか。映画の秘密の花園、尽きることのない湧き出る泉としての豊穣のテクスト。

中でも「第四の壁」めいたテクスト内テクストについては今も心底驚かされる。“作品内の劇場”で上映される映画に侵入するキートン→キートンが本来存在する『探偵学入門』という作品→そのどちらをも観ているリアルな劇場にいる鑑賞者としての私自身の視線、という実に複雑な視線運動をこともな気に軽々とみせてしまう恐るべき力学の密接不可分な磁場がそこに横たわっている。

もう一つ挙げれば、歩くシークエンス。固定されほとんどパン撮影すら稀な動くことのない(できない)キャメラアクションの時代に、キャメラがこれでもかとバンバン動きます。相似形の二人の人物が歩きまくる尾行シーンの激しいキャメラアクションの素晴らしさ!不覚にもただただ涙が溢れて止まらない。

ヴェンダースがどうしてあれだけ歩くことに執拗にこだわるのか。どうしてゴダールがこともなげに疾走するオープンカーをコースアウトさせて水中に埋没させてしまうのか。それはそこにキートンの魂が込められているからに他ならぬ。それが映画だからに他ならぬ。

これを観てから死ぬことをお勧めします。

  本編


  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督
バスター・キートン
原作
ジャン・ハベズ、クライド・ブラックマン、ジョー・ミッチェル
撮影
エルジン・レスレー、Byron Houck
キャスト
バスター・キートン、キャスリン・マクガイア、Horace Morgan、ジョセフ・キートン、Ward Crance
原題
Sherlock, Jr.
製作年
1924年
製作国
アメリカ
配給
松竹
上映時間
45分

  解説


バスター・キートン氏がメトロ社において「恋愛三代記」「荒武者キートン」に続いて製作した第三回長編喜劇で、原作はジャン・ハヴェズ氏、クライド・ブラックマン、ジョー・ミッチェルの三氏が合作し、キートン君自ら監督の任に当たったものである。対手役は「笑王ベンターピン」「紐育の十字路」等出演のキャスリン・マクガイア嬢である。1973年6月16日より開催された特集上映「ハロー!キートン」(フランス映画社配給)にて邦題を「キートンの探偵学入門」と改題して公開。

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