『女中ッ子』1955,田坂具隆



もうため息しか出ません。映画ってなぁこーゆーもんだろぅ〜という教科書みたいな作品でした。観賞後リスペクトしか残りません。

少し悔しいけれども、やっぱり脚本が素晴らしいと言わざるを得ません。台詞で説明せず、画と画の組合せで観せるスキルの高さ。それで十分伝わってきます。いや十分どころか言語化できない複雑な感情の波に観る者はいつしかディープに支配されてしまうかのようです。

戦後10年でここまでの水準に到達しているのかと感慨深く感じました。それには日本映画の、黎明期を経て戦前から脈々とバトンされてきた、ポテンシャルの大きさがあってこそ。スタッフ、キャストとも「戦後」の伝説的なビッグネイムが名を連ねています。今村昌平へと続くDNAを感じました。

東京オリンピックの9年前。都市の変化を体感する上でも大事なサンプルです。空き地や薄野が多く、野良犬がウロウロしていて、安全柵の無い水辺が普通にある住宅地。

室内セットも本当に素晴らしいです。東京のお屋敷と秋田の実家ともにきちんと設計されていることが伝わってきます。

秋田ナマハゲ習俗の紹介シークエンスは不必要に長かったけれども色んな大人の事情があったんでしょうか。でもその後の両親が雪深い道を足を取られながら辿々しく訪ねてくるロケのロングの横移動の素晴らしさで帳消しです。

戦後民主主義イデオロギーどっぷりのある意味で幸福な作品とも言えるでしょうか。近代化、都市と農村、戦前のヒエラルキー、新たな戦後のヒエラルキー、斬新的進歩主義への無根拠な信仰…。

左幸子!素晴らしすぎです!
必見!

  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督
田坂具隆
脚本
田坂具隆
須崎勝彌
原作
由起しげ子
製作
芦田正蔵
撮影
伊佐山三郎
美術
木村威夫
音楽
伊福部昭
録音
中村愛三
照明
河野愛三
キャスト
左幸子、伊庭輝夫、田辺靖雄、轟夕起子、佐野周二、高田敏江、宍戸錠、宮崎準、細川ちか子、九谷常行、土方弘、千代京二、八代康二、渋沢準、伊丹慶治、東山千栄子、河合賞典、小林一郎、茅島静枝、滝川まゆみ、坂井一郎、高品格
列原題/The Maid
製作年/1955年
製作国/日本
配給/日活
上映時間/142分

  解説


由起しげ子の原作を「長崎の歌は忘れじ」以来の田坂具隆が久々で監督する映画で、脚本は田坂監督が「火の驀走」の須崎勝彌と共同で執筆した。撮影は「女人の館」の伊佐山三郎の担当である。主なる出演者は「おふくろ(1955)」の左幸子、宍戸錠、「青春怪談(1955 市川崑)」の轟夕起子、「うちのおばあちゃん」の佐野周二、「雪割草」の伊庭輝夫など。

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