『甘い夜の果て』1961,吉田喜重



シネスコサイズで成島東一郎とくれば、まるで翌62年にカラーで公開される『秋津温泉』の姉妹作品じゃん。おまけに弟の津川雅彦が主演で『秋津温泉』の長門裕之に先駆ける。津川/長門それぞれのキャラ設定も興味深い。

『秋津温泉』でも感じたことだけどシネスコはやっぱ、群像劇とロング・ショットと寝転ばせるということなんだろうなあ。お金さえあればほんとは吉田喜重の大掛かりなモブシーンとかシネスコで観てみたいものだとムクムクと詮無き欲望がもたげてくる。実際には4〜5人をポンポンポンと上手に配置する群像劇に留まっている。それでも吉田の才気走った構図センスにしびれる。

『秋津温泉』鑑賞後思ったのはやたらとロング・ショットや超ロング・ショットが強調され、その画面の中で岡田茉莉子がちょこまかと動き回るということだ。本作で岡田のようなトリックスターは見当たらないけれどやはり誤魔化しの効かないロング・ショットをどう制御するかが主要な関心事であるように思う。

またこれは『秋津温泉』同様やたらと人物が寝転がっている事実と符合している。吉田の作家性を越えてシネスコのサイズ的必然的な要請によるのだと思う。シネスコがあってこそ人々は寝転がる快楽を手に入れ始めたのだ。

シネスコにおける、ロング・ショットと寝転がる人物という意味では本作と62年の『アラビアのロレンス』とは遥かに連帯している。

もう一つ強調しておきたいのは白と黒との強烈なコントラスト。黒が潰れてほとんどその詳細が見えてこない。セリフは聞こえてくるが発話者がどんな体勢で発話しているのかがよくわからない。これは明らかに吉田の狙いであって、露光をわざと絞って黒を強調。ある意味で詳細の省略をして観る者の想像力に委託していると言えなくもない。ただ後の『戒厳令』などを観ると絞りの調節によって潰れた黒味だけでなく、ハレーションっぽい白味の表現も取り入れられていて、白黒のより強いコントラストに発展進化していく。そこに鑑賞者の想像に託すような楽天性は微塵も感じられない。

最後になんと言ってもクラブのママを演じる嵯峨美智子と未亡人役の杉田弘子がエロ過ぎる。この妖艶極まりないエロい二人を吉田喜重はことあるごとに寝転がせまくっている。吉田の背中から頸にかけてのフェティッシュなエロティシズムも相変わらず。まあ、エロエロですね。

必見!

  予告編


  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督/吉田喜重
脚本/吉田喜重、前田陽一
製作/佐々木孟
撮影/成島東一郎
美術/芳野尹孝
音楽/林光
録音/中村寛
照明/田村晃雄
スチル/堺謙一
キャスト/津川雅彦、山上輝世、日高澄子、滝沢修、瑳峨三智子、浜村純、佐々木孝丸、杉田弘子、瞳麗子、佐藤慶、福岡正剛、俵田裕子、田中美智子
原題/Bitter end of Sweet Night
製作年/1961年
製作国/日本
配給/松竹
上映時間/85分

  解説


「血は渇いてる」の吉田喜重が、助監督の前田陽一との共同脚本を監督したもので、社会機構の中に生きる現代人の欲望を描く。撮影も「血は渇いてる」の成島東一郎。

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