2023年日本映画以外マイ・ベスト10



スコセッシとはとことん相性が悪いらしくて秋口に一時、劇場に通えなくなって『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を見逃す。他にも地元の蓼科高原映画祭にゲストで来られた岡田茉莉子さんのトーク・ショウにも結局行けずじまい。

  ■第一位

『フェイブルマンズ』スティーヴン・スピルバーグ

生涯の特別な一本!スピルバーグを好きになって本当によかった。いつまでも観ていられる、いつまでも観ていたい。もうあれこれとあんまし論評したくない。そんな風に思う作品はこれが初めて。暴力装置としての映画の本質的な恐ろしさ。

  ■第二位

『PERFECT DAYS』ヴィム・ヴェンダース

これって日本映画にカテゴライズされるのかな、まあいいか。役所広司と三浦友和のダイアローグシーンを観るだけでも価値ある作品。東京というすでにピークを過ぎた都市の中に映画自身が濃縮されて存在している。いずれにせよ日本人には絶対に撮れないTOKYO。役所広司は全キャリアの中のベスト・アクトです。

  ■第三位

『アンデス、ふたりぼっち』オスカル・カタコラ

いや、これドキュメンタリーやん。シンジラレマセ〜ン。『海辺の彼女たち』を越える衝撃。当たり前かもしれないが、キャメラはほとんどステイで超ロング・テイクで画格もロング・ショット。これが誤魔化しの効かないリアリティを作り上げている。真っ暗闇の雷鳴が素晴らしい。

  ■第四位

『小説家の映画』ホン・サンス

お茶目ホン・サンスのお茶目映画。遊び心満載でめっちゃ楽しい。今回は数取り合戦。いつもの“飲み食いホン・サンス”なのだが今回も面目躍如。数取り合戦の勝利の女神が可憐な少女を降臨させる。公園散策時の熾烈な数取り合戦も楽しすぎ。最後のエンディング・ショットまでエンタメに徹し切る。

  ■第五位

『RRR』S・S・ラージャマウリ

立て続けに三回濃厚なゲロ吐いて三日間ずっと胸焼けが続いたような、くどすぎるインパクト。獣神二頭の合体劇が異次元の意表を突く素晴らしさで、すでにこっち側の頭は鈍器で殴られたがごとき真っ白状態。もうこうなるとひたすらにこの映画の持つ突出したチカラに身を委ねる以外ない。

  ■第六位

『青いカフタンの仕立て屋』 マルヤム・トウザニ

うーん、これが六位かあ、うーむ。兎に角これが映画というものです。何を映し何を映さないのか。ずっとハンディでクローズ・アップで続く画面構成は、最後の最後に凛としたロング・ショット一発のためにあったのだ。ちょっと優等生過ぎてヨーロッパ帝国主義に侵蝕されている気配がしてそこが少し気掛かりです。

  ■第七位

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』クリストファー・マッカリー

理屈抜き。兎に角、兎に角、走るトム・クルーズを心して観るべし!彼の運動がどれほど素晴らしく、どれほど映画史に誠実であるかを天下に知らしめている。彼こそが(中共の犬に成り下がる前の)ジャッキー・チェンと共に燦然と輝くアクション俳優たちの正統な系譜を引き継いでいるのだ。乗り物出まくりの快楽はまさしくアクション俳優の始祖バスター・キートンに捧げられている。

  ■第八位

『栗の森のものがたり』グレゴール・ボジッチ

恐るべき光の取捨選択。ほとんど極限の禁欲性とさえ言えるスリム・アップした限界ギリギリのライティング。ヨーロッパ独特のフォークロワでありながら、前近代と近代と脱近代が同居してしまっているようなとっても不思議なブリューゲル的空間を作り上げる。

  ■第九位

『シャドウ・プレイ【完全版】』ロウ・イエ

しびれるフィルム・ノワール。この系譜も極めて正統性が問われる厚みのあるジャンル。ロウ・イエはガッツリその嫡子の座についた。ザラザラしていてグラグラしていて逆光も唐突なフレーム・アウトも平気。傍若無人な画面構成がカッコいい。作品そのものから離れてしまうけれど中共に対する彼の姿勢にも共鳴する。【完全版】と銘打つ姿勢に遥かに遠い希望を感じます。

  ■第十位

『ヨーロッパ新世紀』クリスティアン・ムンジウ

『福田村事件』の迷走した出口不在の息苦しさを完全に吹っ切ったポスト・モダンのリアリティに溢れる。EUのグローバリズムにNOを突きつけるルーマニアの閉ざされた辺境に住む土着民たち。異分子排除を決めた“民主主義的でかつ偏狭な対応”の開放感とファシズム再興の萌芽的なヤバさが同居する。この作品のこうした正直な散文性が、甘っちょろい口先から放たれる“草の根民主主義”なるものがいかに現実から遊離した欺瞞であるかを告発している。周縁だからこそ派生する多言語のハイブリッド構造が生み落とすであろうナニモノかにも可能性を感じる。

  ■次点

⚫︎『トリとロキタ』リュック・ダルデンヌ、 ジャン=ピエール・ダルデンヌ
⚫︎『セールスガールの考現学』ジャンチブドルジ・センゲドルジ
⚫︎『秘密の森の、その向こう』セリーヌ・シアマ
⚫︎『バービー』 グレタ・ガーウィグ
⚫︎『私、オルガ・ヘプナロヴァー』トマーシュ・バインレプ
⚫︎『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ダン・クワン、 ダニエル・シャイナート

  ■ワースト

『崖上のスパイ』チャン・イーモウ

はいはい毎度お馴染み中国共産党プロパガンダ映画。チャンさん、毎年毎年飽きもせず、よーけ作りはるわあ。これぞ中共のお犬さまざんす。生類憐みの令発令か。

  ■番外作品

『ジョン・フォードと「投げること」完結編』蓮實重彦、三宅唱
3回も鑑賞できて幸せでした。

  ■今年初見した旧作(順不同)

⚫︎『家からの手紙』シャンタル・アケルマン
⚫︎『こわれゆく女』ジョン・カサヴェテス
⚫︎『ブローニュの森の貴婦人たち』ロベール・ブレッソン
⚫︎『ライアンの娘』デイヴィッド・リーン
⚫︎『冬の旅』アニエス・ヴァルダ
⚫︎『牯嶺街少年殺人事件』エドワード・ヤン
⚫︎『ポルターガイスト』トビー・フーパー
⚫︎『グレイ・ガーデンズ』アルバート・メイズルス、デビッド・メイズルス、エレン・ホド、マフィー・メイヤー
⚫︎『カンバセーション盗聴』フランシス・フォード・コッポラ
⚫︎『アシャンティ』 リチャード・フライシャー
⚫︎『女優ナナ』ジャン・ルノワール など

それにしても『枯れ葉』とエリセの新作が待ち遠しいことです。

良いお年を!