2023年日本映画マイ・ベスト10



今年は秋口からよんどころない事情で2ヶ月半劇場行けず悔し涙に暮れました。それでも土壇場の12月に大傑作『絶唱浪曲ストーリー』に出会えて幸せなことです。


  ■第一位

『絶唱浪曲ストーリー』川上アチカ

もう名場面しかない。今でも思い出すとゾクゾク震えてしまう。天才浪曲師の最晩年を通して日本の芸能史の一隅を照らす渾身の大傑作。改めてドキュメンタリー映画とは何かを、穏やかではあるけれど、しかし鋭利に突きつけている。

  ■第二位

『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』阪元裕吾


現在の日本映画が誇るべきアクション映画の最高峰。私たちは伊澤彩織を持ち得たという奇跡と幸せ。最後の大決闘前の定食屋のシーンのスザまじさ。フォーカスというキャメラ・アクションの機能性にしびれる。しかもローアングルの脚で!

  ■第三位

『ロストケア』前田哲

虚像が実像を侵蝕していく。反射物と実像とキャメラアクションの3要素が絡み合うドラマティックな相剋劇に息を呑む。雨粒もとても美しく映画を構成している。あまりにも素晴らしくて、鑑賞後に劇場で思わずひとりで拍手してしまった。

  ■第四位

『せかいのおきく』 阪本順治

旺盛な製作意欲の元、様々な作品群をリリースし続けており、そのどれもがハイクオリティ。中でも本作は阪本の最高傑作ではないのか。必要なものだけを撮り、不要なものは撮らないか使わない、そして必要なものだけを整然と繋いでいく。たったそれだけのこと。

  ■第五位

『はだかのゆめ』 甫木元空

甫木元は不本意なのかもしれないが青山真治テイスト満載。特に夜の傾斜地を下る自動車のヘッドライトを捉えた遠影にはしびれる。望遠の揺らぐ淡く枯れた薄野の逆光が美しい。プロデュースは仙頭武則。

  ■第六位

『逃げきれた夢』二ノ宮隆太郎

歩いて、歩いて、歩き切って、今度は話して、話して、話しまくる。肩舐めの安直なリバース・ショットを排した立派なサイズのダイアローグがこの作品の凛とした風格を構成している。光石研はもちろんのこと、脇の松重豊や岡本麗も素晴らしい。

  ■第七位

『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司

あの中江裕司がこんなにも暗い映画を作った。ここには沖縄の眩い陽光はない。その代わり暗くて繊細で極上の光の美しさ。兎に角、どデカい一枚窓から差し込む光の加減を観ているだけでも価値ある一本。腹が減る作品。

  ■第八位

『窓辺にて』今泉力哉

量産に爆進する今泉力哉にハズレ無し。なぜなんだ?今年は本作含め新作3本鑑賞。どれも素晴らしかったけれど本作を選択する。いつものことだけど、緩やかでありながらストイックなキャメラ・ワークが大好きだ。何より稲垣吾郎がすご過ぎる。

  ■第九位

『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』寺田和弘

ドキュメンタリー映画の社会的意義とその有効性を知らしめる作品。不正と理不尽と未必の故意。近代国家ニッポンの歪みを真正面から告発するチカラ。やはり地方自治から始めなければならないと実感する。

  ■第十位

『BLUE GIANT』立川譲

兎に角初っ端の『インプレッションズ』でもっていかれる。脳髄直撃のグルーヴ感ハンパなく、身体に強い影響を与える作品。理屈抜きにカッコいいっす。音響の良い劇場で鑑賞できて幸せこの上なし。

  ■次点

⚫︎『リバー、流れないでよ』山口淳太
⚫︎『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦
⚫︎『わたしの見ている世界が全て』佐近圭太郎
⚫︎『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』古賀豪
⚫︎『グリーフケアの時代に』中村裕
⚫︎『シン・仮面ライダー』庵野秀明
⚫︎『Single8』小中和哉
⚫︎『いずれあなたが知る話』 古澤健

  ■ワースト

『福田村事件』森達也

作り手たちの主観的な真剣さ、熱意、誠実さ、同時に、作品中の映像自身が持っているパワーは十二分に伝わってきます。しかしそれにもかかわらず、非常に残念ですが、この先の展望が全く見えません、少なくとも私には。新宿ゴールデン街的イデオロギーに自家撞着したかにみえる知的怠惰。『坊っちゃん』という小説を世に問うた夏目漱石のラディカリズムより遥かに後退した地点で自閉自足しています。全共闘のじーさんが設計したウラ若き女性新聞記者像。観るにつけ、聴くにつけ、噴飯もののセンティメンタリズム、鑑賞しているこちらが気恥ずかしくなります。唯一監督の森達也だけが異分子としてこの作品を救っているように思います。

  ■今年初見の旧作(順不同)

⚫︎『残菊物語』溝口健二
⚫︎『エリ・エリ・レバ・サバクタニ』青山真治
⚫︎『天然コケッコー』山下敦弘
⚫︎『その夜の妻』小津安二郎
⚫︎『どん底』黒澤明
⚫︎『東京戰争戦後秘話』大島渚
⚫︎『嵐が丘』吉田喜重
⚫︎『女中ッ子』田坂具隆
⚫︎『犬王』湯浅政明
⚫︎『にあんちゃん』今村昌平
⚫︎『略称・連続射殺魔』足立正生
⚫︎『リムジンドライブ』山本政志 など

杉田協士と三宅唱の新作、早く観たいなあ。

日本映画以外マイ・ベスト10に続く。