『PERFECT DAYS』PERFECT DAYS,2023,ヴィム・ヴェンダース



封切り直後につきネタバレご注意を。

なんと本作90%の入り。てっきり『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』目当てと思いきや、どうしてどうして、負けていない。

一作毎に悪い意味でその巨匠振りが身についてきたヴェンダースだったが、今回ばかりは最近の作品群では断トツのベスト、鉄板のオススメです。ヴェンダースの東京愛が溢れる。同時にTOKYOにひとり立つヴェンダースの孤独。ヴェンダースがそこに居るという意味は、そこに映画が居るという意味です。ヴェンダースのおかげで東京に映画が灯っている。

映画的引用を挙げ出したらキリがない、というか全編これ、さりげない引用だけで出来上がっている。言わば映画が映画自身を語っている。例えば高速道路のジャンプ・カット。誰へのオマージュかとかそんなんどーでもいい話だけど、映画の古層をいきなり刺激してきて、ついつい胸が締め付けられる。

しまいには結局セルフパロディがおっぱじまる。陰踏みのダイアローグ。演じるのはスタントン/キンスキーに代わって役所広司と三浦友和。『パリ,テキサス』に続いてヴェンダースが作り上げた映画史に残る同一方向を向いたダイアローグシーン。これを小津の気配の残る東京で撮り上げたこと。素直にヴェンダースに感謝したくなりました。

役所広司がほとんど喋らない。すごい!!こりゃあカンヌ取るよねえ〜。説明的セリフが一切ないから眼で語る、ちょっとした顔のシワのでき具合で語る、目線の外し方で語る、顔の角度の違いで語る。実にデリケートにその「意味」を伝える、或いは伝えない。素晴らしすぎる。だけど考えてみたらそれって結局サイレント作品では当たり前のことだったりする。本作はその再現でもある。

ちょっとずつしか出てこない俳優たちも例外なくみんなめちゃくちゃにいい。全員いい。中でもアオイヤマダ。ルーズでとんがっててキレイで優しく無国籍な感じ。ほんの数ショットしか出てこない麻生祐未の堂々たる映画女優振りも刮目するレヴェル!ほとんどローレン・バコール並みの存在感。

乗り物気狂いのヴェンダースだが今回は軽ワゴン車と自転車に禁欲。この禁欲が大成功。特に二台の自転車の並走運動は、これが映画であることを雄弁に証明している。また音楽には定評のあるヴェンダースだが、それにしても今回劇劇劇劇劇いいっすよ。特にアタクシの世代には。

本、緑、逆光、ネオン、スティル写真、タバコ…などの記号群。これってヴェンダースじゃん。やっぱそこに居るんだよ、映画が。

おかげさまでめでたく今年の洋画(日本映画以外)マイベスト10にランクイン。必見です。

  予告編


  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督/ビム・ベンダース
脚本/ビム・ベンダース、高崎卓馬
製作/柳井康治
エグゼクティブプロデューサー/役所広司
プロデュース/ビム・ベンダース、高崎卓馬、國枝礼子、ケイコ・オリビア・トミナガ、矢花宏太、大桑仁、小林祐介
撮影/フランツ・ラスティグ
美術/桑島十和子
スタイリング/伊賀大介
ヘアメイク/勇見勝彦
編集/トニ・フロッシュハマー
リレコーディングミキサー/マティアス・ランパート
インスタレーション撮影/ドナータ・ベンダース
インスタレーション編集/クレメンタイン・デクロン
キャスティングディレクター/元川益暢
ロケーション/高橋亨
ポスプロスーパーバイザー/ドミニク・ボレン
VFXスーパーバイザー/カレ・マックス・ホフマン
キャスト/役所広司、柄本時生、アオイヤマダ、中野有紗、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和、田中都子、水間ロン、渋谷そらじ、岩崎蒼維、嶋崎希祐、川崎ゆり子、小林紋、原田文明、レイナ、三浦俊輔、古川がん、深沢敦、田村泰二郎、甲本雅裕、岡本牧子、松居大悟、高橋侃、さいとうなり、大下ヒロト、研ナオコ、長井短、牧口元美、松井功、吉田葵、柴田元幸、犬山イヌコ、モロ師岡、あがた森魚、殿内虹風、大桑仁、片桐はいり、芹澤興人、松金よね子、安藤玉恵
製作年/2023年
製作国/日本
配給/ビターズ・エンド
上映時間/124分

  解説


「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。

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