『One morning』2013,『わたし/あいだ/わたし』2021,『ナナメのろうか』2023,深田隆之



短編『One  morning』と『わたし/あいだ/わたし』の併映にて三回目の『ナナメのろうか』。深田隆之を3本続けて鑑賞できる快楽を上田映劇で。作品履歴の詳細は一切知らないけれど断言できるのは深田の類い稀な才能はおそらく初期段階の短編で既に発露されており、その当時から最新作『ナナメのろうか』まで10年かけて、ひたすらその才能が洗練され強化されてきたに過ぎないということだ。映画における才能とは実に残酷なもので、ヘンリー・フォンダがどれだけ知的な努力で熱演を繰り返したところで、野蛮なジョン・ウェインの馬上姿のたった1ショットに遥かに及びはしない特権的なものなのだ。その意味で深田は映画から愛されるべくして愛されているのだ、初期の短編から既に。

その意味で特に注目すべきなのはわずか7分の『One morning』の苛烈なフィルム体験だ。登場人物はたった二人。延々と続くダイアローグ。二人が同棲生活をしていると思しきアパートの一室。実に単調極まりない空間における7分間の大冒険だ。その冒険とは、鏡/異言語/寝転がる人物造形の3点に尽きる。この3要素の組み合わせが実にドラマティックに映画を形成している。カラーも瑞々しく美しい。やがて『ある惑星の散文』へと引き継がれるカラーの室内撮影の素晴らしさ。

続いて『わたし/あいだ/わたし』。前述の『ある惑星…』もそうだけれど、まずこのタイトルにしびれちゃうよ!センスええわあ、素晴らしい。ヨーロッパ映画か、フランス現代思想の書籍にでもありそうなタイトル。画像は荒れていて焼けた8mmのノスタルジック仕立て。かなり実験的なチャレンジを窺わせるが、必ずしも成功しているとは言い難い。時間軸の揺らぎと空間の固定。加えて登場するのは女性が一人だけ。この材料で「わたし」と「わたし」の「あいだ」の3要素の関係性を語り切るだけの戦略が不足しているように思う。ただテーマ自体はゾクゾクするような刺激があり、極めてチャレンジブルな野心に富んでいるのは間違いない。ぜひ今後深化させていってほしいと願わずにはいられない。

最後に三回目の『ナナメのろうか』。もう三回目になるとひたすら堪能。夜の姉妹それぞれの超クローズ・アップがひたすらに美しく胸が締め付けられる。こんな奇跡のような作品をリリースしていただき凡庸な私はひたすら感謝しかない。

  『ナナメのろうか』予告編


  作品データ


『One morning』
監督/深田隆之
出演/パク・ソンヒ、ジントク
撮影/古澤淳
録音/渡部雅人、島田雄史
助監督/田中浩美
衣装/小林和貴
上映時間/7分

『わたし/あいだ/わたし』
監督/深田隆之
出演/中川ゆかり
撮影・編集・脚本/深田隆之
音楽/本田真之
英語字幕/上條葉月
製作/√CINEMA
上映時間/8分

『ナナメのろうか』
監督/深田隆之
脚本/深田隆之
撮影/山田遼
照明/小菅雄貴
録音/河城貴宏
整音/黄永昌、カラリスト、山田遼
編集/深田隆之
音楽/本田真之
助監督/高橋壮太
制作/南香好
英語字幕/上條葉月
キャスト/吉見茉莉奈、笠島智
製作年/2022年
製作国/日本
配給/夢何生
上映時間/44分