『ファントム・スレッド』Phantom Thread,2017,ポール・トーマス・アンダーソン



本当にこれはアメリカ映画なのだろうか。一驚を喫する。ここのところPTAの未見作品をまとめて鑑賞しているのだけれどこの人の懐の深さに改めて慄然としてしまう。

あちらの世界の住人。この世に生を受けながらあちらで生活することの軋轢、断絶、孤独。決して交わることがなく絶対的な不寛容の屹立した世界に住む者。人は或いは狂人と言い、或いは天才と呼ぶであろう。単語こそ違えど結局のところ両者は同義である。

そしてこの孤独な断絶に一人のトリックスターが送り込まれる。それは性差で言えば女と呼ばれもする道化師のことだ。この歌舞伎者の一挙手一投足がこれまで安定して分厚く、ある種の平和を微妙なバランスの中で確保してきた断絶に微かな揺らぎを与える。忽ち世界は変化してしまいもう二度と戻ることはない。

そして何よりも感動的なのはこの決定的な世界の変化を美しく優雅な螺旋階段が担うのだ。見上げ見下ろす、PTA特有の縦の構図にピタリと符合してしまう螺旋階段の恍惚と戦慄よ。深く深く味わい尽くす。まるで毒キノコのバターソテーように。

  予告編

  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督/ポール・トーマス・アンダーソン
製作/ジョアン・セラー、ポール・トーマス・アンダーソン、ミーガン・エリソン、ダニエル・ルピ
製作総指揮/アダム・ソムナー、ピーター・ヘスロップ、チェルシー・バーナード
脚本/ポール・トーマス・アンダーソン
撮影/ポール・トーマス・アンダーソン
美術/マーク・ティルデスリー
衣装/マーク・ブリッジス
編集/ディラン・ティチェナー
音楽/ジョニー・グリーンウッド
キャスト/ダニエル・デイ=ルイス、ビッキー・クリープス、レスリー・マンビル、ブライアン・グリーソン、カミーラ・ラザフォード、ジーナ・マッキー
原題/Phantom Thread
製作年/2017年
製作国/アメリカ
配給/ビターズ・エンド、パルコ
上映時間/130分

  解説


「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスが2度目のタッグを組み、1950年代のロンドンを舞台に、有名デザイナーと若いウェイトレスとの究極の愛が描かれる。「マイ・レフトフット」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「リンカーン」で3度のアカデミー主演男優賞を受賞している名優デイ=ルイスが主人公レイノルズ・ウッドコックを演じ、今作をもって俳優業から引退することを表明している。1950年代のロンドンで活躍するオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックは、英国ファッション界の中心的存在として社交界から脚光を浴びていた。ウェイトレスのアルマとの運命的な出会いを果たしたレイノルズは、アルマをミューズとしてファッションの世界へと迎え入れる。しかし、アルマの存在がレイノルズの整然とした完璧な日常が変化をもたらしていく。第90回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。

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