『アンドレイ・ルブリョフ』。

タルコフスキー流儀の歴史大河ロマン。

掛け値なしで素晴らしい作品。

3時間越えの長編。

全く気にならない。

むしろ段々タルコフスキーが身体に馴染んでくる感じ。


白黒モノトーンの画面が美し過ぎる。

時間を字幕によって明示するスタイル。

そして時間がシーンや場面の転換をも意味する構造。

タルコフスキーがこれだけ時間軸を説話構造に取り入れた映画はほかに無いと思う。

敢えて言えば『惑星ソラリス』だが、『…ソラリス』は時間軸というよりも過去との対話だと思います。


テーマは破壊と創造。

あるいはその対立軸そのものを無効にして逸らしてしまうこと。

タタール人による無慈悲な破壊とロシア絶対王政によるロシア正教会の再建。

失地回復と同時にいわゆるロシア人なるものの起源の物語。


これをアカデミックな歴史書では決して真似のできない独特のスタイルで提示している。

絵巻物形式と言ったら言い過ぎでしょうか。

今昔物語や竹取物語と言った殆ど伝奇物語に近い作品です。

その上近代思想が凝縮投影された、言わば20世紀の色濃い烙印を押された「映画」と言うメディアでもあります。

言葉の真の意味で根本的語義矛盾を孕む大傑作です。


個人的に最も興味深く注視したのは「残雪のキリスト受難」のシーン。

これをロシア正教的と形容していいのかわかりませんがイタリア系の作家たちの表現ともハリウッドのある種の作品群とも異なる表現。

余談ですがベルリンの壁崩壊とソヴィエト連邦の解体は宗教的には結局正教は無力であり旧教、就中ポーリッシュのヨハネ=パウロⅡがそのパワーを遺憾無く発揮した。


最終盤の鐘の鋳造と建立の逸話も素晴らしい。

阿部謹也が飽きもせず描き続けた中世社会史の時間がそこには有る。


以下出典根拠Wikipedia

監督/アンドレイ・タルコフスキー
脚本/アンドレイ・タルコフスキー アンドレイ・コンチャロフスキー
製作/タヌーラ・オゴロドニコヴァ
音楽/ヴァチェスラフ・オフチニコフ
撮影/ワジーム・ユーソフ
編集/リュドミラ・フェイギーノワほか
出演/アナトリー・ソロニーツィン イワン・ラピコフ ニコライ・グリニコ ニコライ・セルゲーエフ ニコライ・ブルリャーエフ イルマ・ラウシュほか
1971年モスフィルム


あらすじ
本作の舞台は、15世紀初頭のモスクワ大公国である。タタール襲来とルーシ諸公の内乱が続いた動乱期を背景に、ロシアの最も優れたイコン画家アンドレイ・ルブリョフの苦悩と模索を描いた。