とらんぷ
あのカードをトランプと呼んでいるのは日本だけだそうで、英語では「playing cards」と呼ばれるそうです。「trump card」は切り札や最後の手段、素晴らしい人物の意味で、また「trump up」と言うとでっち上げとか捏造とかの意味になるらしいです。
まあですからこのtrumpがdealやbluffの達人と言われる今、衰退するアメリカの最後の切り札として半分は熱狂的な支持を寄せ、半分はbluffと捏造に対する強烈な嫌悪を抱くこの現状も分からぬでもないですね。
相反する英語の意味を総括してみれば「毀誉褒貶こもごも至る」が大意となる⁉️で締め括るのはどうでしょう。
さてもうドナルド・トランプは食傷気味なのでトランプにまつわるお話を致しましょう。
小林秀雄の「中原中也の思い出」の中にトランプが出てきます。
/中原が鎌倉に移り住んだのは、死ぬ年の冬であった。前年、子供をなくし、発狂状態に陥入つた事を、私は知人から聞いてゐたが、どんな具合に回復し、どんな事情で鎌倉に來るやうになったか知らなかった。
/中原は壽福寺境内の小さな陰気な家に住んでいた。彼の家庭の様子が餘り淋し気なので、女同士でも仲よく往き來する様になればと思ひ、家内を連れて行った事がある。眞夏の午後であつた。
彼の家がそのまゝ這入って了ふ様な凝灰石の大きな洞窟が、彼の家とすれすれに口を開けてゐて、家の中には、夏とは思はれぬ冷たい風が吹いていた。四人は十錢玉を賭けてトランプの二十一をした。
無邪氣な中原の奥さんは勝つたり負けたりする毎に大聲をあげて笑つた。皆んなつられてよく笑つた。
今でも一番鮮やかに覺えてゐるのはこの笑ひ聲なのだが、思ひ出の中で笑ひ聲が聞えると、私は笑ひを止める。/抄
小林秀雄「中原中也の思い出」1949年6月
文中の「トランプの二十一」というのはトランプの出現を予言していたような言葉ですね。昔ノストラダムスの大予言華やかなりし時、四行詩の中に「閉じられた港の前の21」というのがありました。都市伝説家なら婆鷭鵞もシンプソンズも真っ青と言うかも知れません。
尊敬する小林秀雄さんふざけてごめんなさい。
碧
映画「猿の惑星」は愚かな核戦争により、無惨にも自由の女神が波打ち際に佇立するラストシーンで、見る者に強烈な衝撃を与えましたが、ピエール・ブールの原作小説では映画とはテーマを異にしていて、人間が退化したのは核戦争ではなく、言わば人類の「経年劣化」が徐々に進み、日常の起居さえも緩やかに鈍化してゆく様が描かれています。
そして小説のエンディングをよく読むと、人類の「経年劣化」は地球だけではなく宇宙の隅々にまで及び、全宇宙は類人猿の、いや!chimpanzeeの世界になった事が示唆されているのです。
「人々は日常のありきたりのことさえ儘ならなくなっていった。トランプの七並べでさえ出来なくなった。」 ピエール・ブール著「猿の惑星」から
ヘンリーミラーは「南回帰線」の中で次のように書きました。
/いわゆる<精力的な>人間になら、掃いて捨てるほどお目にかかったことがある。-アメリカという国全体が、そんな輩でいっぱいなのではなかろうか。/
そう!トランプの大統領就任式に出席した謂わゆる大物経営者たち、イーロンマスク、ジェフベゾス、マークザッカーバーグ、ティムクック、サンダーピチャイ、etc 彼らは皆いつかnightmareにとり込まれ、鼻面を引き廻されて彼らのindividualの人生を失ってしまいました。真のpoorとはこのようなことを言うのだと思います。
私はいつも思うのです。ああいう中にH・D・ソローを入れて彼に自由に言わせてみたいと。
イゾラド アマゾン最後の文明非接触民2016年
「これら内面とは無縁な財産を信頼すると、やがてわれわれは、数を奴隷のように崇めることになる。政党はおびただしい集会を開き、集まった人間の数が多ければ多いほど、そしてエセックス郡代議員殿、ニューハンプシャー州民主党員殿、メイン州ホイッグ党員殿などと紹介する声が新しくわめきたてるたびに、若い愛国者は、新しく千を数える目と腕が加わったことで、以前よりも自分が強くなったような気がする。同様にして、改革者たちも集会を招集し、群れをなして投票し決議する。ところがだ、諸君、こんなふうでは、まったく正反対の方法によるのでなければ、神が君たちのなかにはいり、君たちを神の宮居としたまうことはないのだ。人が強くなり、勝利者となる姿がわたしの目に見えるのは、その人が外来の支えをいっさいとり除き、ひとり立ちするときに限る。人は彼のかかげる旗印に新しい支持者が加わるたびに弱くなる。人間は町よりも立派な存在ではないだろうか。世人には何ひとつ求めないようにしたまえ。」
ラルフ・ウォルド・エマソン「自己信頼」
これからの4年間私たちは痴愚の跋扈する世界を目撃するでしょう。彼らには正義もなければ慈しみの心もありません。
常に何かに支配され隷属することを望む世界の半数の人間が同類の彼らを支持しています。
彼らの夢想するバベルの塔がいつ崩壊するかわかりませんが、それまでの間私たちは自己研鑽に励みましょう。
彼らが荒廃させた世界を救済するのは残りの半数の私たちですから。
わたしは世界から4年間の休暇をもらったと思っています。
白鳥碧