
ミルク療法(ミルクケア)を始めて3年ほど経ったころです。
いつものように半年ごとの検査で、岩手医大第三外科外来で採血をして、胸部レントゲンを撮るためにレントゲン室の前で本を読みながら待っていました。
何げなく顔を起こすと向こうから懐かしい私の主治医が歩いてくるではありませんか。
3年前退院してから診察は主治医の手を離れて外来の医師の担当になっていました。
突然だったので固まってしまい、挨拶をしようと思ったのですが挨拶をしそこなってしまいました。私の主治医は何事もなかったかのように、私の目の前を通り過ぎていきました。

後悔しながら主治医の後ろ姿を眺めていると、突然主治医が歩みを止めて振り返り、遠目にこちらを見ました。やがて私の主治医はあごに手を当てて、なんども首をかしげて考えているようでした。
私には主治医の心の呟きが、分かるように
思いました。
『・・・・・・・・・・・・』
そう、そんなことはありえないのです。
彼の長い医師のキャリアでも、また私の経験でも【あの患者】が生きているはずはないのです。

私の主治医は諦めたように歩きだしましたが、戸惑いははっきりと歩みに表れています。なんどか振り返りながら、やがて通路のかどを曲がって行きました。
私はなんてドラマチックなんだろうと思いました。
本当にこんなことがあるんだ。私は感動していました。そしてこの三年をもたらしてくれた、私の主治医に心の中で感謝しました。
あのとき絶望を抱えながら、何とか生きようとした私に、医師としてではなく、同じ人間として胸襟を開いてくれた、あの私の主治医がいてくれたからこそ、いま感動している私がこうして息をし、心臓が命の時を打ち続けているんだと思ったのです。

今日の話は昨日の続き今日の続きはまた明日
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