秋田県仙北市田沢湖町田沢
寂れた農協の倉庫の壁にカマキリの亡骸が幾たびかの風雨にも落ちることなく付いていました。
中央下部グレーの壁の黒い点
オオカマキリのメスで胸の歩脚の爪が、粗いコンクリートの僅かな突起に掛かっていました。
カマキリは肉食でその一生は殺戮と殺戮と殺戮の一生でした。
しかしこのカマキリの死に顔はとても穏やかでした。菩薩のように静謐で、微かな笑みすら湛えて、夢のなかにいるように見えました。
輪廻のどこかでこの穏やかな微笑みに値する行為があったのでしょうか。
永劫の過去から永劫の未来の中で、生死の流転を繰返しながら、安らかな死に顔の因縁となった何かが、この凄惨な殺戮者カマキリの上に示唆されているのを見るとき、私たち人間には到底計り知れないものがあることが胸に迫ります。
また「それ」はこのカマキリにさえ、安らかな死に顔と微笑みをもたらしていることを鑑みるとき、私たちにも、或いは更にまた私たちならではの安らかな微笑みがもたらされると信じます。
あれは誰の声だったの…?