20歳くらいのときに好きな人がいました。

その人は文章を書いたりする人で、わたしに意地の悪いことを言ってきたりわたしの語彙の間違いを指摘してきたりする人でした。
酔っ払って意識を飛ばしたわたしの口にカンピョウ巻きを大量に詰め込み、それを写真に撮って画像を自身のサイトのトップページのenterにするという悪質な嫌がらせをしてきたり。

その人と、一度だけデートをしたことがあります。
たしか、カフェでお茶して、漫画喫茶行って、居酒屋に行くみたいな流れでした。
なぜ漫画喫茶に行ったのかよくわかりませんが、狭い個室に密着して座るのはすごくドキドキしたような気がします。
別になにをされるわけでもなく、彼はただただお気に入りの漫画を勧めてきました。
ジョージ朝倉はそこで初めて読みました。
わたしはたしか、南Q太と川原泉を勧めました。

当時わたしのお酒の飲み方は壊滅的で、強くも無いのにガバガバと飲んで記憶を無くすことがしょっちゅうでした。
(今も定期的に記憶を無くしますが)
案の定、居酒屋でわたしは記憶を飛ばし、次に起きたときはホテルにいました。
よく覚えていませんが、何度もわたしですいませんと言っていたようです。
すいませんって言う女は嫌いだ、と彼は言っていました。

「俺のこと、好きにならないでね」
別れ際に彼はそう言いました。
嫌いだったらデートなどしません。
わたしは、そうなのかーとちょっとがっかりしたのを覚えてます。
そのあとも数回複数人でご飯には行きましたが、二人で会ったのはその一回だけです。

それから生活環境が変わり疎遠になります。
1年くらい経って、急に彼から電話がかかってきました。
「なにしてるの?」
他愛のない話をしたと思います。
電話を切るとき、
「わたしね、本当はあなたと付き合いたかったんだよ」
と言ったら
「なんで言わなかったの!?言ってよ!来週会おうよ!」
と急に声を荒げて言われました。
とても嬉しかったです。
でも、わたしはそのとき恋人がいて一緒に住んでいたので、会うことはありませんでした。
恋人が家にいるので、なんとなく申し訳なくてそのあとも一度も電話をかけることはありませんでした。

半年くらい経って、共通の友人から彼が亡くなったことを聞きました。
お葬式に出ても、火葬場でも、彼の顔を見ても、涙は出てきませんでした。
その時ワンストラップのパンプスを履いていたんですがボタンが急に壊れました。
買ったばかりなのに。
少し大きかった靴なので、そのあとスポンスポン脱げてとても歩きづらかったです。
友人が靴を見て、
「あいつがまた嫌がらせしてんのかもね」
と言いました。
遺影の彼はなんか変なパーマかけてて、最後の写真はそれか、ざまあみろと心の中で思いました。

さっき見た夢に彼が出てきました。
4歳年上だったのに、彼はもう10歳もわたしの年下です。
それなのになんか偉そうに嫌なことを言ってきたので、年上に対して失礼だとわたしは少し機嫌が悪くなりました。
目が覚めて、わたしは久々に彼のことを思い出しました。

変な癖毛の眠そうな顔をしたカーディガンの似合う人を、わたしは今も探してるのかもしれません。



おわり。