未だに、

「あれは一体なんの会議だったのか」

 と不思議で仕方ない思い出があります。

 

 ある日、会社の会議室に同じ係の人10人ほどが集められました。

 議題は何と、

「生産課のTさんに関すること」

 でした。

 

 その当時、私はまだ総務課でも後輩社員がいないような下っ端で、噂話にも疎い方です。

 会議が始まり、他の先輩方は内容を把握してるのか、何の前置きも説明もなく、

「どうやったらTさんは言うことを聞いてくれるのか」

 って話し合いが始まったんです。

 

 私にとっては、何のことだか、全く分かりません。

 まあ、そういう会議が開かれるのが仕方ない人だという認識はありました。

 Tさんって、寿退社が不文律だったうちの会社では、恐らく女子社員最年長。

 当時の言い方では、お局様ってやつです。

 

 うちの会社、総務とか経理とかは女子社員も多い代わり、仕事も多いです。

 始業時間より20分~30分早く来て掃除したり、帰りも片付けとかしてると30分~1時間の居残りになります。

 でもそれには残業手当なんかつきません。

 

 

 それと比べて総務と遠い生産課の女子社員は、

 

 始業時間の1分前に会社の門をくぐります。

 始業のチャイムが鳴ると、とりあえずラジオ体操だけやりに事務所へ来ます。

 総務課の女子社員が給湯室でお茶を入れてる間、

「給湯室が混むから」

 という理由で、いったんロッカー室に戻り、15分かけ念入りにお化粧した後でお茶を入れます。

 終業時間の1分後にはもう着替えを終えて門から出てます。

 仕事が暇だから、ファッション雑誌とかをパソコンの陰で仕事中に眺めてる光景も何度か目撃しました。

 

 こういう状態だということは、誰から話を聞かなくても、見てるだけでじゅうぶん分かってました。

 総務と全然違うな、不平等だな、とも思ってました。

 生産課の女子社員の中でも、技術係にいるTさんが一番手強そう、というのも察することができました。

 

 ただ、なぜ総務課の私たちが、

「生産課のTさんがどうやったら言うこと聞いてくれるか」

 って話し合いをする必要があるのでしょう?

 何かよほどの事件が起きたのでしょうか。

 その辺りの事情が全く分からないので、途中で意見を求められましたが、ためになるような答えはできません。

 

 

 私以外の人はみんな事情が分かってるみたいなので、適当に合わせたこと言いました。

 予想通りというか、30分くらい話し合って、何の解決策も出ないってオチでした。

 本当に、あの話し合いは何だったのか、未だに不思議で仕方ないです。