パッと見た感じ、
「頑固で厳しい建設現場の親方」
 が職業だったらぴったり、って感じの、ねじり鉢巻がすごく似合いそうなご近所さんがいる。
 
 仮に、田中さんとしよう。
 
 その田中さん、ちょっと仕切りたがりというか? まあ、決して無口とか引っ込み思案だとか人見知りな人ではない。
 けれど、犬の散歩中に道ですれ違うときなんか、私が挨拶しても、まるっきり無視される。
 
 世の中いろんな人がいるので、私も1度目は、挨拶を無視されても、
「聞こえなかったかな?」
 と考える。
 
 で、2回目はもうちょい大きな声で、はっきり挨拶してみる。
 それでも無視されるなら、相手は私に挨拶する気がない、ということだ。
 よって、3回目以降は、どんなに至近距離ですれ違っても挨拶しない。でも、相手も挨拶しないからお互い様だ。

 田中さんの話に戻って。
 じゃあ、誰に対してもこういう態度なのか? というと、そうでもないんだよね。
 
 田中さんのお孫さんが、習い事でお世話になっているという人が、たまたま私とは犬の散歩友達で。
 2人で散歩していたとき、田中さんご夫妻とばったり会った。
 
 すると田中さん、
「あああ、こんにちは! この間はうちの孫が大変お世話になりまして!」
 と、これ以上ないくらいにっこにこの笑顔で、散歩友達に話しかける。
 めっちゃ話が弾んでいる。
 
 話は弾むが、当然のことながら私の存在は、きれいさっぱり無視である。
「近所の人、という以外に何も接点はないはずだけど、どこか知らないところでこの人から恨みでも買ったかな?」
 と記憶を辿ってしまうくらい、それは見事な無視具合である。
 
 まあ、いいけどね。
 別に、仲良くしたいとも思わないし。
 
 それくらい、私を無視していた田中さんだが。
 
 先日、わが家の駐車場目がけて車が突っ込んできた。
 幸い、電柱がかなりの衝撃を吸収してくれたので、私の車の窓ガラスが割れ、天井にへこみができた程度で済んだ。
 けれども事故の瞬間は、「家が揺れた」と言う人もいるくらい、すごい音がしたそうだ。

 今の車にあと3年くらい乗るつもりだったのだが、修理をしてもらっても、どこか予想もしないようなところに影響があったら嫌だし、思い切って車を買い替えることにした。
 早速、販売店の人に代車を持って来てもらったそのとき。
 たまたま、田中さんが車で通りかかった。
 
 すると田中さん、全開にした窓から顔を出し、
「すっごい音したよねぇ。災難だったねぇ」
 と、満面笑みを浮かべて話しかけて来たのでびっくりしたびっくり
 
 うわー、今まであれだけ私のこと無視してたのに。
 こういうときは笑顔で話しかけて来るんだぁ。
 すごいなぁ、私には、そういう切替はできんわ……。