暑いのは嫌いだし、夏は明るくなるのも早いので、4時半頃に犬の散歩に出かける。

 

 家から1キロほど離れたところを歩いていたら、なんか声が聞こえてきた。

 最初は、誰かが大声で歌ってるのかと思った。

 

 私が歩いている道と、声の主が歩いている道とはY字になっていて、30メートルほど先で合流する。

 合流地点にたどり着いたのは、声の主の方が先だった。

 そこには自販機があって、ジュースを買おうとしている模様。

 

 ところが、近づいて行ったら、自販機のボタンをあっちもこっちも何度も何度も押しながら、

「自販機って、なんでもにょもにょ少なすぎるのっ!?

 肝心のところが聞き取れなかったが、何かが少ないと文句を言っていた。

 お気に入りのジュースが、あまり売ってないのだろうか?

 

 それだけならともかく、文句を言いながら、

「うわぁぁん」

 という感じで泣いているではないかびっくり

 もしかして、ちょっとヤバイ系の子だろうか?

 

 なんかちょっとヤバそうなので、怖くて顔も見られなかった。

 ただ、声の感じでまだ若い女の子だということは分かる。

 

 とりあえず、声をかけずに追い越した。

 彼女は、私の数メートル後を歩きながら、

「行きたいよ! 私だって行きたいよ!

 だけど行けないんだよ! 大事なところでいつもミスするから!」

 

 そこでまた、「うわぁぁぁん、うっ、うっ」と泣く。

 

「先生はそこのところが解かってない! 私のことを見てくれてない!

 誰も、誰も私のことなんか見てない!

 うわぁぁぁん、うわぁぁぁん」

 

 間違っても中学生ではないし、高校生なのかなぁ? 大学生とか、専門学生とかでもおかしくないかも。

 部活の悩みだろうか。

 行きたいというのは、何かの試合とかコンクールとかで、メンバーに選ばれるか、選ばれないか、みたいな?

 

 

 元々私はお節介な方なんで、

「どうしたの、何かあったの?」

 って声をかけてみようか、という気持ちはちょこっとあった。

 

 だけど、見ず知らずの人が前を歩いている路上というシチュエーションで、こんなに泣き叫ぶって、小学生なら有りかもしれないけど、高校生以上の年齢の子がやることではないよねぇ?

 

 その後も、

「こんなに頑張ってるのに、誰も見てくれない、先生も分かってくれない、こんなに頑張ってるのにどうして私だけが報われないの、私の人生、どうしてこんなに報われないの」

 的なことを、合い間、合い間にわんわん泣きながら叫び続けている。

 

 こうなるともう、ちょっとした恐怖体験というか。常軌を逸していると言っても良いのではないだろうか。

 とてもじゃないけど、怖くて声をかけられるような雰囲気ではなくなってきた。

 

 単に情緒不安定なお年頃なだけなら良いけど、何らかの精神的な疾患があるとか、まさかまさかだけど妙なドラッグとかをやっての被害妄想とか。

 それが何かをきっかけに、私への攻撃に転じる、という可能性もあるんじゃないのか? って考えると、けっこう怖いガーン

 

 まあ、話の内容的には、攻撃に転じる被害妄想って感じではなかったし。

 結局、私が曲がるところで彼女は真っすぐ行ったので、その後どうなったかは分からないけど。

 できれば、2度と遭遇したくないなぁ。