第13回緑区医師会医学会で発表しました。テーマは『便失禁』です。便失禁の疫学やガイドライン、保存的治療から手術までを説明しました。高齢の方々の病気ではなく様々な年代の方にも起こりえる疾患です。便失禁という病態を多くの先生方に知って頂く良い機会になりました。
【抄録】
便失禁とは便を一定時間保持できない(切迫性失禁)、あるいは無意識に便が漏れる(漏出性失禁)状態であり生命の危険はないものの患者にとっては耐え難い苦痛であり著しくQuality of lifeを損う。便失禁したときの便臭や他人に嫌な思いをさせるのではとの思いから、外出や人と会うことを控えようとするため社会生活に支障がおこり人間としての尊厳を脅かされ自己尊重の低下を招くため問題はきわめて深刻である。人口に占める便失禁の割合は,本邦では1日1回 以上の便失禁が2%,65歳以上に限れば10%との報告があり肛門機能は加齢とともに低下するため高齢化にともない増加すると予想され対策は急務である。しかし,便失禁はいまだタブー視され医療界やマスコミに取り上げられることが少なく、羞恥心などもあり患者自身が検査や治療を求めて医療機関を訪れることは少ない。医療側にも便失禁の病態が広く理解されているとはいえず、一部の大腸肛門病領域の専門医が排便障害外来などで診療にあたっているが,全国的な広がりを見せている尿失禁外来に較べると,その体制は十分とはいえない。現在では便失禁治療ガイドラインが発刊され検査や治療は標準化され専門医療機関も徐々に増えてきている。当院ではホームページやYouTubeなどのソーシャルメディアを利用して啓蒙活動を行い、便失禁患者に医療的アプローチが存在することを伝え積極的に治療の機会を提供している。
外来では排便習慣や便の性状,発症契機、便失禁の症状、頻度や程度,日常生活への影響,分娩歴や泌尿器,婦人科,肛門領域の手術歴,糖尿病や神経性疾患などの併存疾患,食事習慣や内服薬にいたるまで詳細な問診を行う。肛門診察に引き続き肛門内圧検査(括約筋損傷が疑われる場合は肛門超音波検査)を行い,必要に応じて下部消化管内視鏡検査などを追加して便失禁の原因および病態を精査する。治療は内服薬による排便コントロールと骨盤底筋運動の指導が主である。また痔核や直腸脱などの器質的疾患が原因であれば手術を施行し、改善が乏しい症例には脛骨神経刺激療法や仙骨神経刺激療法を提案している。
便失禁は病態や原因を正確に評価し診断することによって、多くが安価で安全な方法で治療可能である。しかし、患者自身が便失禁症状を隠したり、医療者が便失禁を認知していないために放置されている例が依然として多いと考えられる。今回、当院における便失禁外来の現状を報告する。

