あたいは、みーや。
この面構えを見て貰ってもお分かりのように、たやすく触ってもらっちゃ、
血をみるよ。
四年前に、ここんちのかーさんにさらわれてやったのさ。
わざとさ。
どーしてかって?
子供がいたからさ。
その上、次の日から大寒波が来るってわかってたからさ。
師走もおしせまった31日の深夜さ。
あったかい部屋で、二匹でたらふく食べてやったさ。
あたいに似たやつがいたさ。
福と、たんたんと名付けられてたね。
福がさらわれたのは五年前だったかね。
あれは仕方なかったさ。
そりゃあ、命をすり減らすほどの暮らしさね。
たんたんは…ありゃあ、可哀想だったね。
近所にあった砂場。
コンクリートに使う砂にションベンをした
ってさ、
そこんちの親父に、壁に投げつけられたのさ。
おまけにホースで水をかけられて側溝に流されたのさ。
危うく死ぬところだったよ。
助けられたのは奇跡さね。
福もたんたんもえびちゅも、
今のかあさんにベタベタさ。
でも、あたいはまだ人間に心を許した訳じゃないのさ。
何でかってさ、
あたい達のおっかさんは人間に蹴られて
死んだからさ。
あたいも、福も、他の兄弟たちも見ていたさ。
辛くて思い出すのも嫌さ。
今のかあさんは、あたい達のおっかさんを
みーやって呼んでいたのさ。
あたいは、おっかさんにソックリなんだってさ。
だから、あたいをみーやって呼ぶのさ。
あたい、人間にさわられるの嫌だからさ、
今のかあさんにも触らせなかったさ。
でも、もう、四年経ったことだし、
少しならいいか……って。
号泣してたさ、かあさん。
まあ、今日はいいさ。
寒かったしさ。
人間にひどい事されても、
すぐ忘れて、人間に甘えられるやつもいるけど、
あたいみたいになかなか忘れられないやつもいるって事さ。
この世の中で一番恐ろしい生き物は、
人間だからさ。
でも、あたい達はその人間と共存しなけりゃあ、生きるのは難しいんだな。
まあ、そんなこったから、
よろしく頼むよ。