認知行動療法はうつ病や対人恐怖症なども含め、さまざまな心の病気に対する効果的な精神療法です。この治療法を日常の不調に対しても応用できるよう、今回は認知行動療法の基本的な考え方や精神症状に対するアプローチを詳しく解説していきます。

 

気持ちがふだんより沈んだ時に試してみたい認知行動療法的な対処法

 

秋から冬にかけてはふだんより気持ちが沈みやすい季節かもしれません。秋の夕日に心がしんみりすることもこの季節特有のマイルドな気持ちの落ち込みといえるでしょう。

日が短く、夜が長くなるこの季節はそれ自体、うつ病のリスク要因のひとつです。

 

思考こそがその時の気分や行動を決める

 

ふだん私たちの思考は気分に左右されがちで、自分ではコントロールが難しいように思われます。しかし、実は思考している内容こそが、その時の気分や行動に大きく影響を与えています。

 

前向きな思考になっていれば、ふだんより積極的な行動を取るかもしれません。反対に悲観的な事を考えていたら、気分はかなり悪くなるはずです。

これを裏返していえば、気分や行動に問題が多い時は“思考に問題が生じている”可能性があるということ。この問題をはっきり認識して対処できれば、沈んだ気持ちは大きく改善するでしょう。

これが認知行動療法において心の病気を治療する際の基本的な考え方です。うつ病や不安障害、睡眠障害など、多くの精神疾患に効果があると実証されており、私たちの日常における心の不調に対しても充分応用できます。

具体的にどのように対処すべきなのか、気分や行動に問題が生じた時の認知行動療法的なアプローチを、例を交えて詳しく見ていきましょう。

 

自然と浮かんできてしまうマイナス思考を自覚する

 
ここでは例として、野球部に所属している高校生A君の心の問題を考えます。

A君は夏の試合に出ることができず、ひどく落胆しました。一方、友達のB君は初めてレギュラーとして試合に出たにも関わらず、大活躍でした。
 
A君とB君はそれまでたいへん仲が良かったのですが、A君はその試合を境にB君と口をきかなくなり、B君を学校で見かけても避けるようになってしまいました。

みなさんはA君にどのようなアドバイスを与えますか?「そっとしてあげよう」というのもひとつのアプローチでしょう。
 
しかし、認知行動療法的なアプローチとしては、まずA君は試合に出られなかったことで、自分にいわば負け犬意識が根付いたことをはっきり認識してもらうことが望ましいです。

なぜなら、この思考がA君の気持ちの落ち込みの原因であり、同時に仲の良かった友達を避けるようになってしまった原因だからです。
 
こうした意識ははっきり自覚しておかないと、時に過剰になり、不合理性も生じやすいのです。
 

思考の不合理には対処が必要!

 

A君が自分に生じた負け犬意識をはっきり自覚したあとは、それに客観的に対処していくために、信頼する誰かにその悩みを打ち明けることが重要です。

自分の問題を言葉で誰かに伝えるということは、その問題に関してある程度、客観的な立場に立ったことになります。

 

また、思考の不合理性は自分ではなかなか気付きにくいものですが、他人には一目瞭然の場合が少なくありません。

 

会話を通じて、自分のそうした問題に気付く可能性もあります。このように思考の問題をはっきり自覚したあとも、さらにその問題について話していくことで、自分の思考の問題により注意が向くようになります。

 

これが、認知行動療法的なアプローチです。

また、A君は試合に出られずひどく落胆しましたが、そうした時はネガティブな考えが頭を巡りやすくなります。

 

そのままネガティブな思考が頭を占めていれば、A君の気分はさらに落ち込んでしまう可能性があります。

ネガティブな思考にストップをかけることは、認知行動療法によってうつ病の患者さんを治療する際、ターゲットとする心理的要素です。

 

日常的な気分の落ち込みに対しても有効ですので、ぜひ意識しておきたいものです。

その具体的な手段は個人個人でかなり違うでしょう。ある人は数回深呼吸するといったやり方が効くかもしれませんし、バットの素振りをしてみることでネガティブな思考が抜けることもあります。

 

より積極的にいろいろと試してみたいところです。今回は認知行動療法的なアプローチを詳しく解説しました。

 

うつ病や対人恐怖症なども含め、さまざまな心の病気に対して効果的な心理療法ですので、私たちが日常、時に覚える精神的な不調に対しても、そのアプローチをぜひ使ってみると良いでしょう。