せん妄は時に認知症のように見えてしまう事も……

せん妄の症状は時に、他の疾患と類似している場合があります。例えば、せん妄で現われやすい記憶障害失見当識意味不明瞭な言動といった症状で、せん妄が認知症のように見えてしまう場合もあります。

しかし、こうした症状はごく短期間で出現してきたこと、そして症状そのものに変動が大きいことなどから、その病態は脳組織に不可逆的な変化が起きている、いわゆるアルツハイマー型の認知症ではなく、一時的に脳機能が低下してしまった、せん妄である可能性が高くなってきます。

また、せん妄では時に幻覚や妄想が現われる事があり、統合失調症などの症状に類似する場合もありますが、こうした病気と鑑別する際、せん妄には特徴的な脳波所見があるといった事もその手助けとなります。

 

せん妄の対処法 

せん妄への対処は、基本的にはその原因を見極めたうえで、それに対処していく事です。しかし、幻覚妄想状態になっている場合や睡眠障害などに対しては、薬物療法が必要になる場合もあります。

せん妄は、その原因さえ解決すれば通常、3日~1週間ぐらいで元の状態に戻りますが、年齢が高くなればなるほど、回復に要する時間は長くなる傾向があります。

例えば、せん妄の具体的な状況として、何かの折に頭を強打してしまい、硬膜下血腫ができて”せん妄”が生じたケースを考えてみましょう。

 

この場合は血腫を除去しさえすれば、せん妄は治癒するはずですが、もし本人が頭を強打したことをあまり意識せず病院受診をしないでいたら、せん妄の症状は持続するはずです。

 

そして、もし本人が高齢であれば、周囲の目には、認知症の症状のように映ってしまう可能性があります。

仮に、その人が高齢の1人暮らしの女性だった場合、久しぶりに顔を見に来た息子は、母親の認知機能がすっかり低下していると気づき、ショックを受けるでしょう。

 

しかし、すぐに母親を病院に連れて行き、頭部のCTやMRIを取れば、血腫の存在は容易に分かるので、短期間で元の母親に戻るはずです。

また、覚えておいていただきたいのですが、せん妄が起きる背景には、実は悪性腫瘍肝機能低下など重篤な医学的問題がある場合が少なくありません。

 

もしも、ご家族などの身近な人に、せん妄のような症状が出現していたら、至急、病院受診が必要な緊急状態であることは、是非、ご留意して頂きたいと思います。