心の病気は、本人の心の弱さや性格の問題ではありません。心の病気を科学的に捉える上で、最も重要なキーワードの一つとなるのが「脳内神経伝達物質」。今回は、この脳内神経伝達物質についての基礎知識を、分かりやすくお伝えしていきます。

 

脳内神経伝達物質が大きな役割

気分が良い時も悪い時も、それは単に脳内環境の反映に過ぎませんが、それには脳内神経伝達物質が大きな役割を果たしています。

 

心の調子をいつも「ほど良い状態」に保つのは、簡単なようでなかなか難しいものです。もしもそれを達成できたら、いわゆる悟りを開いたことになるのかもしれません。実際には、人間が生きていく上で、イライラやムシャクシャのタネは本当に至る所にあります。

例えば、朝一番の仕事が一段落してコーヒータイムを満喫しているときに、仲が良くない誰かがあれをしろ、これをしろと急に指示してきたら、朝の幸せな気持ちもあっという間に壊れてしまうでしょう。

 

ただ、こんなちょっとした出来事で、あまりに強い苛立ちを頻繁に感じてしまう場合は少し問題です。そんな時は往々にして、脳内環境に何かしらの問題が起こっているものです。

 

実は人間の心の調子には、「脳内神経伝達物質」が大きく関わっています。今回は、あなたの心の調子を言わば決めてしまう、脳内神経伝達物質について詳しく解説していきます。

 

脳内で情報伝達をする「脳内神経伝達物質」

脳内神経伝達物質とは、その名の通り、脳内で神経細胞が他の神経細胞へ情報を伝達するための物質。そのプロセスを述べる前に、まずは神経細胞の形状を説明していきましょう。

神経細胞は、視覚的には球根部を持つ細長い草の茎のようなものです。その球根部にあたる「シナプス」と呼ばれる部分で情報伝達が行なわれます。

その情報伝達の具体的な流れですが、まず神経細胞のシナプスから次の神経細胞までの隙間に、神経伝達物質が放出されます。

 

その神経伝達物質が、その隙間を通って相手の膜へたどりつく事で、その神経細胞から相手の神経細胞へ情報が伝達されます。

この脳内神経伝達物質には、実にさまざまな物質があり、既に数百の物質が知られています。しかし、そのなかで精神病理に特に関与していると、一般にみなされているものは、かなり限られています。

 

具体的には、ドーパミンノルアドレナリンアセチルコリンセロトニン、そして、GABAなどです。

 

脳内環境を調節する脳内神経伝達物質

次に脳内神経伝達物質が、いかに脳内環境を調節するかを解説していきます。神経細胞間の情報伝達は、神経細胞の末端から放出された神経伝達物質が、相手の膜にあるレセプターに結合する事でなされます。

 

その際、相手の膜へ無事に辿り着いた神経伝達物質の量によって、神経細胞間を流れていくシグナルの強度は、おおまかに決まります。神経細胞の末端から放出された神経伝達物質は、相手の膜にたどりつくまで、様々なメカニズムでその量が調節されます。

 

少し砕けた表現で解説した場合、例えば相手の膜に辿り着くまでに、元の神経細胞へ無理やり戻されてしまう場合もあれば、放出された途端に酵素で分解されてしまう場合もあります。さらに、せっかく相手の膜に辿り着いたのに、そこにあるレセプターの数が減らされていて、結合できるレセプターが見つからない場合もあります。

もしも何らかの原因で、こうした調節に何らかの支障が生じてしまうと、神経細胞間を流れていくシグナルの強度が、通常より強過ぎたり弱過ぎたりしてしまい、結果的にこれらの神経細胞から構成される神経系全体の活動が、過剰あるいは過小になり、病的な精神症状が出現しやすくなります。

具体例として、統合失調症では、ドーパミン作動性の神経系が過剰に活動している事が、その特徴的症状である幻覚や妄想などの出現に大きく関与しています。反対に、パーキンソン病では、ドーパミン作動性の神経路に何らかの変性が生じている事が、病気の大きな原因である事が分かっています。