思考パターンに歪みがあると、感情や意欲に問題が生じ易く、また感情や意欲に問題が生じていると、歪みが拡大してしまう悪循環が生じやすく、うつ病、不安障害など心の病気につながりやすくなります。

 

意識に潜んでいる歪んだ思考パターンは気分や感情に問題を起こしやすい

気分や感情はその時、何をどんな風に考えているかに大きく左右されますが、物事の受け止め方には、同じ出来事を楽観的に受け止める人もいれば、悲観的に受け止めてしまう人もいるといった具合に個人差があります。

こうした違いはその人の思考パターンから生じやすいのですが、気分や感情にネガティブな影響を与える思考パターンには以下のようなものがあります。 

  1. 自分を責める
  2. 悪い方向へ考える
  3. 自分にネガティブなレッテルを貼る

 今回はこれらの例を基に、思考パターンに潜んでいる歪みが、気分や感情にいかにネガティブな影響を及ぼし、歪みの矯正がメンタルヘルスにおいて重要である事を解説していきます。

 

1.自分を責める

何かが起きた時、自分を責めてしまう事は誰にでもある事ですが、この傾向が強く、例えば、「仕事で失敗した」「子供が病気になった」「夫の帰りがいつも遅い」など様々な場面で自分を責めるようになると問題です。

 

自分を責める事によって気分が落ち込み、気分が落ち込むと自分を責める傾向がさらに強まる悪循環が生じやすくなります。この悪循環は、特に気分が病的に落ち込む「うつ病」で顕著になりますが、自分を責める傾向が強い原因として、意識にその人の原則と言えるほど強い信念が存在している事があります。

例として、「自分に問題がなければ悪い事は起こらない」と言う信念が、意識に潜んでいる人について考えてみます。

 

「自分に問題がなければ悪い事は起こらない」という信念は、「悪い事が起これば自分に問題がある」となりますので、この人は悪い事が起きた時、例えば「仕事で失敗した」「子供が病気になった」「夫の帰りが遅い」といった時や、極端になると夫が訳もなくちゃぶ台をひっくり返してしまった時でさえ、「自分が悪かったから」となりやすいのです。

この人の自責の思考パターンは改善すべきですが、まず意識に潜んでいる「自分に問題がなければ悪い事が起こらない」という原則を発見することが大事です。この歪んだ原則を、「自分に問題がなくても悪い事が起きる時がある」と、現実的な方向へ変化させる事が望ましいのです。

 

2.悪い方向へ考える

物事を悪い方向へ考える事は誰にでもある事です。「大事な試験に失敗してしまう事を想像する」、「気になる人に声をかけたいと思っていても、相手にされない自分のイメージが頭に浮かんでしまう」といった事は正常範囲です。

 

しかし、この傾向が強まると気分が落ち込みやすくなり、また、気分が落ち込むと悲観的に考える傾向が一層強まる悪循環に陥りやすく、こちらも特に「うつ病」でこの悪循環が顕著になります。

 

物事を悪い方向へ考える傾向が強い場合も、その人の意識に信念と言って良い程、強固な考えが潜んでいる事があります。例として、素敵な恋人がいるにも関わらず、「やがて新しい人を作ってしまって、自分は捨てられてしまう」という考えが、いつも頭を横切る人について考えてみます。

 

心配や不安感が大きくなると、本来、感じるべき楽しさを感じ難くなります。もしも、この疑念が「男は浮気をするもの」「私は決して幸せにはなれない」といった信念から派生しているならば、こうした信念は矯正する必要があります。

まず、「男は浮気をするもの」という信念についてです。物事をこうだと決め付けると、物事の認識に正確さを欠きやすくなりますが、「男は浮気をするもの」という信念が意識に生じた原因として、実際にそういう目に合った過去の経験に基づく場合もあるでしょう。

 

私達は過去の経験を基準に物事を判断しやすいものですが、「男は浮気をするもの」という硬直化した考えを「浮気をする男もいれば、浮気をしない男もいる。例え男は浮気をしても、相手を捨てるとは限らない」といった、より柔軟性のある考え方へ変化させる事が望ましいです。

次に、「私は決して幸せにはなれない」という信念についてです。この信念に基づくと、現在、素敵な恋人がいるという幸福に対しても、将来、不幸な事が起きる事になるので、「やがて、相手が新しい人を見つけて自分を捨ててしまう」といった考えが浮かびやすくなります。

 

「私は決して幸せになれない」と未来を固定する考え方を、「現在、あまり幸せを感じないからと言って、未来も不幸とは限らない」といった、より柔軟性のある考え方へ変化させる必要があります。

 

3.自分にネガティブなレッテルを貼る

自分にネガティブなレッテルを貼ってしまうと、気分や感情、意欲が損なわれやすくなります。例として、「私は負け犬」と言う意識が頭を占めている人について考えてみます。こうした思考が精神的に不健全である事は言うまでもありませんが、負け犬という言葉にはネガティブな感情が込められ過ぎています。

 

ネガティブな感情を誘起する「負け犬」という言葉を用いて自分を表現するべきではなく、「私は結婚していないし、子供はまだいない」と、その語の表している条件を用いて自分を表現すれば良いのです。

 

さらに、この条件はその人の特徴のうち、ごく一部を取り上げているだけという欠点があります。「私は結婚していないし、子供はまだいない。しかし、私は仕事で充実感を味わっているし、週末を一緒に過ごす人もいる」といった具合に補足する必要があります。

もしも、「私は負け犬だから何をやってもダメ」という様な思考が生じている場合は、「私は負け犬」「何をやってもダメ」と2つの事が安易に結び付いています。

 

これは、「今日は仏滅」「何をやってもダメ」と2つの事を結びつけて、「今日は仏滅だから何をやってもダメ」という思考を形成するようなものであり、こうした結び付きは解除する必要があります。

 

従って、「私は結婚していないし、子供はまだいない。しかし、私は仕事で充実感を味わっているし、週末を一緒に過ごす人もいる。物事がうまくいく時もあれば、ダメな時もある」といったように、思考を変化させる事が望ましいです。

こうした感情をネガティブにする思考パターンは、子供の頃から常に用いられているうちに習慣化してしまい、言わばその人の個性となっているので、自分で思考パターンの歪みを発見し、矯正する事は容易な事ではありません。

 

うつ病不安障害といった心の病気では、こうした思考パターンが症状をより悪化させてしまい、また、症状が進むと思考のネガティブな部分が、より強くなるという悪循環が生じやすいのです。

 

こうした悪循環を断ち切る為に、間違った認知を発見し、より健全な思考へ置き換える事が認知行動療法と呼ばれる心理療法の原理となっていて、うつ病、不安障害など多くの心の病気に対して有効な治療法となっています。

脳の鍛錬と言えば、頭の回転を高める面が強調されているかも知れませんが、自己の思考パターンに潜む不適切な部分を改善する事が、心の健康、ひいては幸せを得る為に重要である事も知って頂ければと思います。